【短編】夏空よりも眩しいきみへ


中一の文化祭が始まる時期。

羽奈が学年の人気者といい感じだとか付き合っているとか言う話を聞いたことがあった。

羽奈はモテる。

控えめで、目立つことが苦手な彼女だから、初めのうちは彼女の良さに気がつく人は少ないのだけれど。

時間が経つにつれて、その魅力に気付く人は増えていった。

……ほら、今だって。

入学式から四ヶ月、クラスの奴らだけじゃない、先輩にまで目をつけられているんだから。

教室の真ん中で友達と談笑している彼女を横目でチラッと見る。

目を細めて満面の笑みで笑う羽奈。
眩しい。

彼女の、その笑顔が好きだった。

最後に向けられたのが、あんな悲しそうな笑顔だったなんて、信じたくない。

「てかさ、四谷って、足立と同中じゃなかった?連絡先とか持ってねぇの」

「はっ、やっ……持ってねぇ……」

「え、まじ!?それ先に言って!中学の頃の足立ってどんなんだった!?モテてた!?卒アル見せろよ!」

明らかに動揺した声を漏らしてしまったが、彼女のことで頭いっぱいの大江にそのダサい声はかき消された。

「あの〜四谷(よつや)(あやめ)くんいますか?」

え。
教室の後ろから女子の声がして、教室が一気にシンとする。

自分の名前が呼ばれた気がして、後ろを振り返ったのと同時に、

「うわ、また四谷?」

と大江が呆れたような声で言いながら、親指を教室の後ろの扉に向けた。

「呼ばれてる」

「……ん」

教室中の視線を感じつつ、席を立って教室を出ると、見覚えのない女子が三人、立っていた。

1人はこちらを見ずに、俯き加減。

『いいなー!イケメンは!黙ってても女の子が寄ってくるんだから!』

『まじ、今月何回目だよ』

なんて永岡と大江の声が聞こえる。

大江の言う通り、こう言うことは高校に入って何度かあったから、これから何が起こるのか予想はついている。

廊下にいる人たちの視線を感じながら、彼女たちについていくと、人気(ひとけ)の少ない、階段の踊り場に着いた。

屋上に続くこの階段の先は、立ち入り禁止になっているため、使う人はほとんどいない。

けれど、ここに来るのは、五度目。

終始こちらを見ない彼女の両端にいる女友達2人が、
『ほら、昼休み終わっちゃうよ』
『四谷くん待ってくれてるから』
と、彼女を急かす。

コクンと頷きながらも、なかなか声を発しない。発せないんだ。

小学生の頃、あの噂が流れて『気にしないでね!』と羽奈に言われた時の俺みたいだ、なんて思う。

申し訳ない。
本当に。

こんなに緊張して、一生懸命伝えようとしてくれる子を前に、別のことを考えるなんて。

微かに息を吸う音がして顔を上げると、俯いていた彼女とやっと目が合った。

「……四谷くん、あのね、私……四谷くんのことが、好きなの!!……四谷くんが誰とも付き合わないって言うのは知ってるけど、そのっ……まずは、」

「お友達から?」

俺がそういうと、彼女が少しホッとしたような顔をした。

「……え、いいの?」

そんな嬉しそうな顔をしないでくれ。
俺は今から、サイテーなことを言うから。