他の持ち物は全てカバンの中なので落とす心配はなし。


ひと通り自分の落としそうなものを確認してみる。

そうこうしているうちに気がつけば、すでにホームには彼と私のふたりだけ。



「……あの!」

「はい」



じんわりと、夜の空気に彼と私の声音が輪郭をぼかしながら溶けていく。まるでなにかを決意したようにぎゅっと両手を握りしめて、彼は頬を赤く染めた。



「あの、突然こんなこと言って、すみません……」

「……」

「変な奴だって思うかもしれませんが全然そんなんじゃなくて」



じんわり、彼の頬の赤が耳に感染していく。マフラーから覗く皮膚という皮膚がもう全て真っ赤に染まっていた。



「あの、落ちてしまいました……」



やけにスローで聞こえたその言葉を頭の中でリピートしてみる。