「拾っていただいてありがとうございます」
「……」
「……あの」
けれど差し出した掌には一向に私の落し物が戻ってくる気配がない。みっともなく出した右手はそのままに真冬のホームで白い息を吐き出した。
あれ?
どうして黙りなのでしょうか?彼も寒いだろうに。
そして、そろそろ耐えきれない。
こんな綺麗な瞳に見つめられることに。
まるで、ビー玉みたいな瞳。
ぼんやり、大学生だったら私より年下だなとか、若いっていいなとか、二十代後半にもなれば思うわけで。
そんなことはどうだっていいことなのだけれど。
「あ、あの、私なにを落としました……?」
再度目の前の彼に問いかける。
ポケットの中に入れた手でスマホとキーケースの存在を確認した。このふたつはポケットに手を入れていたので落とすはずがないし。
あと落とすものといったら、カバンの外に付いている小さなポケットの中にある定期入れ。けれど、それもいつもと同じようにそこにある。