ーー落としたものとは、いったい?
終電を終えた駅のホーム。
改札に向かって進んで行く、まばらな人たち。
私も例に漏れることなく改札口を目指し足を進めていた。
ヒューッと吹いた冷たい風に思わず肩を上げる。
「さむっ」という独白をこぼし、冷えた手をズボッとコートのポケットへ突っ込んだ。
と、
「落ちましたよ」
「え、」
低い声音と共に突然トントンと肩を叩かれた。
声の方へ振り返る。そこにはマフラーをぐるぐる巻きにし、グレーのコートに身を包んだ男の子がひとり。
たぶん大学生くらいだろうか?
背高い。髪サラサラだな。てか、肌綺麗。
私より頭ふたつ分ほど大きい彼を下から見つめれば、綺麗に澄んだ瞳とこんにちはをして思わず恥ずかしくなった。
「あ、すみません。私、なにか落としましたか?」
「……」
見惚れている場合ではない。
「落ちましたよ」という彼の言葉に、私の落し物を拾って声をかけてくれたんだろうと思った。
咄嗟に頭をペコっと下げ「ありがとうございます」とお礼を言い右手を差し出した。