「嘘つきはよくないと、思います」
「はい」
「じゃあ、本当はどうしてですか?」
「いや、本当のことを言っても信じないと思いますよ」
「それは聞いてみないことには、分かりかねますね」
一歩、彼は私に近く。
「雨の日は傘を持たないって決めてまして、」
「……変人ですね」
「ひどいな。でも、ずぶ濡れでくる男がいたら覚えてくれるでしょ?」
「……え」
そう言うと綺麗な顔をくしゃっとして笑い、私の顔を覗き込んでくる。その表情にどきりと、不覚にも心臓が鳴った。
恥ずかしさを隠すように外を見れば彼が来店する前のしとしと、と降る雨に変わっている。
と、
「気を惹きたくて」
しんっとした、湿気の多い空間にまるで静かに雨が降るように彼は言葉を落とす。
顔が熱くなる。
「……誰の、ですか?」
「あなたの」
「雨の日に傘を持たないその訳は?」
すっと、私に人差し指を向けた彼、
「あなたの気を惹きたくて、」
ずぶ濡れの彼とふたり。
肩を並べる。
雨はまだ、やみそうにないーー。
【雨の日は、傘を持たずに】おわり


