「あの、」
「はい」
「どうしていつも雨の日にこの店に来るのですか?」
「雨宿りをするためです」
私の問いに今度は即答で答えた彼をじっと見つめた。と、くすくすと楽しそうに笑われ、なんだか私がおかしな奴みたいなこの絵面。
じっと眉根を寄せて警戒心剥き出しな視線をお見舞いすれば、
「そんな怪しい奴を見るような目で見ないでください」
「……すみません」
と、まるでなだめるような優しい声音に思わず頭を下げる。
けれどそんな私の全力の謝罪にさえ、さらに笑う彼はなんだか私で遊んでいるようで不愉快極まりない。彼への不快感を高めていれば、ゆるりと唇を開いた。
「嘘です」
「……え」
「雨宿りっていうのは、嘘です」
はいこの人は堂々と嘘をつきました。
ぼぼ他人に近いけれど、あなたのことはなにも知らないけれど、そんな綺麗な顔で、にっこりと微笑まれたって許してなんかやるものか。
雨の日に傘をささない綺麗な顔をした変人。
私の頭の中でなんとも失礼な彼のあだ名が決定する。