ここまでくると自分の語彙力の無さに恥ずかしくなるではないか。
コミュニケーション能力が上がる本を今ここで探しだして縋りたい衝動にかられる。
けれどそんなことが出来ないのは重々承知しているので、自らの語彙力の欠落から逃げるように、やりかけになっている本の整理を再開しに行こうと一歩後ずさった。
けれど、
「あの、」
「え、はい」
「本当にそうお思いですか?」
「……はい?」
彼のゆっくりとした謎の問いかけが、湿気を帯びた空気にじんわり溶ける。
私の計画不足のその逃避は彼の声により呆気なく開始10秒にして虚しくも失敗に終わった。
突然の思いもしない問いに間抜けな声を上げて、固まる。彼の落とした言葉の先を待つ。
「まだまだですね」
「……?」
「雨の日には、傘を持たずにですよ」
再び、じんわりと湿気の空気に溶けた彼の言葉。
それはまるで耳に纏わりつくように、ゆっくり、ゆっくり、私の鼓膜を揺らす。