なんだろう。じっと見つめられることに耐えきれず、慌てて外を指さした。

それにつられるように指先を追って、彼の視線が私から流れていく。

彼とふたり。他に誰もいない雨の香りと湿気を帯びた空気の中で。外を見つめる。


なにか話さなければ。と頭の中で話題を探してみるものの、彼についてなにも知らない私はなにを聞いたらいいのかも分からず。



「生憎の雨ですね」



なんとも無難な言葉を選んで音にした。
天気の話は、はじめての人とも鉄板中の鉄板会話。

共感してくれるだろう。そう思っていたけれど、目の前の彼は黙りで。


あれ?おかしい。私は何か変なことでも言っただろうか。
“生憎”という言葉の中に色々な感情を詰め込んだのだけれど伝わらなかったのかと、ちらり彼の表情を盗み見る。



「嫌ですよね、雨って。湿気で髪は広がりますし、ベタベタした感じがしますし」

「……」

「どんよりとした気持ちにもなりますし……」

「……」



ぺらぺらと、彼の反応を伺いつつなんとも陳腐な言葉を並べていく。

けれど、ずぶ濡れの彼は「なにこの人」とでも言いたそうな視線を向けてくるだけで、私の言葉に同意をしてはくれない。