ーー彼は雨の日に、ずぶ濡れで現れる。
夜の19時頃。
自動ドア越しに外を見ればしとしとと雨が降っていた。
「まだ、降ってる……」
ぽつりと独白を溢し、色とりどりの傘が書店の前を通り過ぎて行くのをぼんやり見つめた。
入り口で咲いている紫陽花はまるで梅雨入りを喜ぶみたいに水浴びをしていて、なんとも気持ちがよさそう。
お客さんのいない店内で新刊を出しつつ、陳列された本の整理をしていれば来客を知らせる自動ドアの開く音がチリンッと鳴った。
と、入り口にはずぶ濡れのスーツ姿の男性がひとり。
今日もだ。内心そんなことを思いながら一瞬向けた視線を手元の本に戻す。
あまり関わりたくないけれど、でも彼はずぶ濡れなわけで。
店には他の店員もお客さんもいない。
けれど、さすがに店内を無法地帯にするわけにはいかないので早足でレジの後ろにあるストックルームへ向かう。
小さな椅子にかけられたブルーのハンドタオルを手にし、すぐ様店頭に戻った。
ぎゅっと、ブルーのハンドタオルを握りしめ、先ほど来店した男性に近づく。