学校が普通に始まって、生活が始まればモブとは退屈な存在だと思ってしまう。

 だって、モブって何すればいいんだ? 陽キャラたちを見ても、陰キャラを見ても楽しそうにしている。

 陽キャラたちが集まって、最近のダンス動画とか、流行りの言葉なんてのをSNSで検索して調べては話をしている。
 どこどこのスイーツが美味しいだの、今度は何が流行るのでバズるだとか。

 ハァ〜若いねぇ。
 
 俺もガムシャラに中学時代は勉強したものだよ。

 陰キャラの方を見れば、漫画やアニメ、プラモの話で盛り上がっている。
 俺だって漫画は読む。週刊誌なんて、立ち読みができなくなったら買いすぎて小遣いがなくなるぐらい読む。
 
 他のグループはアイドルについて語り合う。
 エロ好きたちがどの子が推しだと語り合っているが、俺としては曲は聴いたりはしているけど、そこまで詳しくない。

 モブキャラである俺は、陰キャとして主人公道を歩む彼らの邪魔をするわけにはいかない。
 
 学校の生活は先生がいうように何もしなくても簡単に過ぎ去っていく。
 
 一人で黄昏ながら、男子だけの体育の時間を過ごしていると、クラスメイトで一番のイケメンが隣に座った。

「なぁ、登」
「うん? なんやイケメン君」
「誰がイケメン君だよ。俺の名前は真白《マシロ》ヒロだ」
「なんや、名前までイケメンやん。俺は登ジュンやで。ノボジュンで短縮して言えてまう愛称がついてまうわ」

 実際、関西ではそう呼ばれていた。

「お前って、やっぱりノリがいいよな?」
「チッチッチッ。まだまだ甘いなヒーローは」
「ヒーロー? いきなり馴れ馴れしいやつだな」
「男なんて、適当で十分や」
「ハァー、なんだろうな。他の奴らは俺が話しかけると緊張するんだけどな」

 まぁ自分と比べて劣等感を味わうやろな。
 スポーツしてるとか、イケメンの恩恵を受けたい腰巾着的な奴しか、隣に立ちたくないって思われてまうかもな。

「お前と話してると調子が狂わされるぞ」
「そうか、俺はいつも思うんや」
「うん?」
「イケメンはこの世から撲滅した方がええんちゃうかって」
「物騒だな」

 イケメンくんは、陽キャ要素を持っていて実は話しやすい。
 俺が変なことを言っても会話をしてくれる。

「黙っているだけでモテる奴は男の敵や」
「はは、それはそれで苦労するんだぞ」
「おっ? 認めたな。自分がイケメンやと」
「あっ、それは」
「まぁええ。それも大事なことや」
「どういうことだ?」

 案外付き合いがいいイケメン君と話を続けるのも悪くはない。

「自分を知ることは大事なことや。自分をわかってない奴は、他人のこともわからへん」
「そうか?」
「ただ、イケメンの苦労は幸せな苦労って奴や。俺のようなモブには理解できへん」
「いや、お前も顔はいいだろ。変なノリさえ出さなきゃモテるだろ?」
「ハァー、イケメンから顔がいいって言われてもなぁ〜。見下されているようにしか感じんわ」

 ふん、ちょっと嬉しいことは、言わんけどな。

「くくく、やっぱお前面白いな。まぁ安心しろよ。俺は別にお前に敵対するつもりも、雪乃さんをお前から奪おうとも思ってないから」
「うん? 俺から雪乃さんを奪う?」
「うん? 違うのか? お前がガッチリ守ってるからてっきりそうなのかと」

 あ〜もしかして俺が雪乃さんに話しかけてるから、他の奴が話かけ難いってことか? あ〜それは盲点やったな。

 モブがネームドキャラの邪魔をしてたんか。

「ありがとう。イケメンヒーロー君」
「だから、誰がイケメンヒーローだ! 俺はヒロだ」
「おう、俺はジュンや。よろしくな、ヒーロー」
「お前、マジで馴れ馴れしいって言われないか?」

 諦めたように深々とため息を吐きながらも笑顔でいる。
 こいつも馴れ馴れしいタイプやと思う。

「うん? 何を言うてるんや。俺はモブやで。馴れ馴れしくイケメンに話しかけられるはずがないやろ。イケメンが優しいから話せてるだけや。さすがはヒーローや」
「ハァー、なんか疲れてきた。だけど、お前と話してみたいって思ってたからな。これからよろしくな」
「おう! よろしく。あっ、ただ、俺はモブやからな。ヒーローのようなイケメンとおったら目立つから程々に頼むで」
「はいはい」

 俺はクラスの男子で初めて話してくれるヒロという友達ができた。



 休日の俺は東京散策を趣味にするようになった。
 関西におったときに、もっと自分の地元を知っておけばよかったと後悔したからだ。もっと散策して色々なところに行っていたら話のネタになったのに。

 東京は観光名所も多いから、たくさん観光して過ごしたい。
 それに芸人としての道を諦めたわけじゃない。
 常にネタを探して、メモっていく。

「知識は武器や。知らんくて面白く話すこともできるけど、知識があった方が共感もしてもらえる。次はショッピングモールに行ってみよか」

 東京はどこに行っても人が多い。
 道路にはマリオに扮したカートが走ってるし、常にどこかで誰かが楽しそうにパーティータイムや。

「うん? こんなところに小さい子が一人?」

 可愛い女の子が、ヒーローショーを見ようと背伸びをしているが、周りには親らしき姿も見えない。
 もしかしたら、買い物をしている間にここで待っているように言われたのかな?

「なぁ、見えへんのか?」
「うん」
「肩車したろか?」
「いいの?」
「ええよ。おいで!」

 俺は女の子を抱き上げて、肩車をしてあげる。

 親に怒られるかもしれんけど、見つからんかったらええやろ。

「うわ〜」
「ヒーローが好きなん?」
「ううん。初めて見た」
「そうか、あのヒーローは漫画とかアニメにもなってるんやけど、感動もんやからオススメやで」
「そうなの? 私、まだ字が読めない」
「そうか、ならお父さんかお母さんに読んでもらい」
「お父さんもお母さんもいないよ。お姉ちゃんと来てるの」
「お姉ちゃん?」

 ご両親じゃなくて、お姉さん。
 それが一人ってことはもしかして迷子か?

「なぁ、お姉ちゃんはどこにおるん?」
「えっ? あっ?! お姉ちゃんいない。うっ」

 あ〜これはあかんな泣かしてしまう。
 
「まぁまぁ待ち」
「えっ?」
「俺が一緒におってよかったな。お姉ちゃんを一緒に探したるから、今はショーを楽しみ。ほら、ここからいいところや」

 舞台では、ヒーローが苦戦して悪者に倒される。

「おいおい、ヒーロー。泣き叫んでもいいんだぞ」
「何を言っている。俺は勝利を確信している。だから笑う時だと思った時には、泣くことはない! 俺は勝って笑うんだ!」

 そう言ってヒーローが悪者を倒した。

「かっこいいね」
「やろ。今は、俺がヒーローや。一緒にお姉ちゃん探したるから、今は笑い」
「うん!」

 よし。迷子センター向かいながらお姉ちゃん探そ。