「ねぇ詩織、何かいいことあった?」
「え?」

 昼休み、弥生ちゃんに指摘された私は、掴んでいた卵焼きをポロリと落とした。

「な、なんで?」
「んー、なんとなく? 機嫌がいいように見える。というか、スッキリした顔してるから」

「スッキリ?」
「ほら、部活を強制的に引退させられてから、いっつも難しい顔してたから」

 って、まるで私に「難がある」ように言われてるけど、強制的に引退させる学校の方がおかしいから。そりゃ不平不満も顔に出るって――と、言おうか言わまいか迷っていたところで。弥生ちゃんのスマホがブーッと、音を立てた。

「あ、彼氏だ」
「まだ続いてるの?」

 と、何気なく言った言葉だった。だって自分で「星カップル」って言ってたし、軽いノリで付き合ったように見えたから。だから〝まだ〟なんて言葉を使った、それだけだった。だけど弥生ちゃんからすると、私の発言は気に障るものだったらしい。

「その言い方、なに?」と。いつもの弥生ちゃんからは感じられないほど、ピリッと張りつめた空気が私たちを覆った。

「え、いや単純に、仲良くしてるのかなって……。そう思っただけだよ」
「……詩織さぁ、自分が恋できないからって。そういう言い方はどうかと思うよ」

「そういうって……?」
「詩織は、上から目線なんだよ。恋なんてつまらないって思ってるんでしょ。恋する人たちを、バカにしてるんじゃないの? だから彼氏から連絡が来て喜ぶ私のことも、内心は見下してるんでしょ?」

「そ、そんなことないよ……!」
「ある。じゃないと、さっきみたいなトゲのある言い方にはならないもん」

 トゲ? 私の言い方、トゲがあった? 自分では気づかなかった。だけど、いつも優しい弥生ちゃんが、ここまで怒ってるってことは……、きっと私の言い方に問題があったんだと思う。そうなんだと、思う。

「ご、ごめんね……。そんなつもりはなかったの、本当に」
「……もういいよ」

 ジュース買ってくる、と。弥生ちゃんは席を立った。すると予鈴のチャイムが鳴り、借りていた椅子の持ち主が帰って来たから、私は自分の席に戻るしかなくなった。弥生ちゃんが自販機から帰って来た時「もう自分の席に戻ってる」って、思われないかな。仕方なく戻っただけなのに……。

 だけど、私の心配は杞憂に終わった。なぜなら、弥生ちゃんは授業が始まっても戻ってこなかったから。そしてケンカをした日以来、一切、学校に姿を見せなくなった。