『良かった、電話に出てくれた。どうだったかなって、気になってさ』
「佐々木くん……」

 私、今、無性にこの声を聞きたかった気がする。でも、なんでだろう、なんでかな。分からないけど、今、この瞬間。佐々木くんの声を聞けて、嬉しく思う私がいる。

「あのね、佐々木くん……ありがとう。弥生ちゃんと、仲直りできたよ」
『そっか。それは良かった。頑張ったね』

「え……? 私が、がんばった?」
『空峰さんが頑張ったから、二人の友情は戻ったって。俺はそう思うよ』

 背中を押してくれたのは、確かに佐々木くんなのに。どうして、そんな風に言うんだろう。どうして、そんな優しい言葉をかけてくれるんだろう。

「佐々木くんの言葉って、不思議だね」
『どうして?』

「自分ひとりの力じゃないのに、できたんだっていう達成感がすごいの。頑張れたんだって、前よりも先に勧めたんだって――自分が強くなれた気がして嬉しいの」
『そっか。じゃあ、あの課題もクリアできそうかな?』

 佐々木くんの声のトーンが変わった。
 っていうか、あの課題って……。

『恋を知って告白の返事をするっていう課題。急だけど、二つ目のヒントを言っちゃおうかな』
「えぇ、今⁉ ちょ、ちょっと待って佐々木くん!」

 深呼吸をして、佐々木くんの声に集中する。

『じゃあヒント二つ目。
 ②恋とは、順番ができること』
「順番……?」

 順番って、順番? 恋の……順番?
 黙っていると「分からないって顔してる?」と、見事に当てられた。う、その通り……。

「ごめん佐々木くん、実は①のヒントの意味も、まだつかめてなくて」
『ヒント一つで答えが出ちゃったら、それはそれで味気ないからさ。どうせならヒント三つ目まで聞いてから、答えをだしてほしいけどね』

 電話越しにクツクツ笑う佐々木くんの声が、妙に楽しそうで。佐々木くんはやっぱり意地悪だなぁって、そう思ったら私の口角も無意識に上がっていた。

『じゃあ、また明日。おやすみ』
「あ、今日はありがとう、おやすみ」

 ピッと、通話を切る。すると、たちまち静かな世界が帰ってきた。

「②恋とは、順番ができること……かぁ」

 頭の中、ヒントがグルグル回っている。そして、同じくらい佐々木くんの顔もグルグル……あれ? なんで頭の中に、佐々木くんがいるんだろう。それに、心臓が妙にドキドキ鳴ってるのは……気のせいかな?

「お母さんに迎えにきてもらおうかと思ったけど、歩いて帰ろう」

 自分の顔が赤い気がして、手でパタパタ扇いでみる。だけど頭の中をヒントと佐々木くんがグルグル回る度、不思議と体温が上がっている気がした。