私は生まれつき声が出なかった
産まれた時かららしい、産声を上げなかった
いや、上げれなかったのだろう

産まれる時の赤ちゃんの本能と言えるものは
私の声帯はもう壊れてしまっていたらしい

産声を上げないで私、優希は産まれた

その時の両親は悲しかったらしい
一番最初の子供だったから

けど、妹が産まれた時はちゃんと産声を上げて産まれてきた

私のたった一人の妹、香織
小さくて可愛かった

それと同時に私の中で複雑な思いが生まれた
羨ましかった
喋るっていいなって、思った

私は喋ることもできないから、友達も出来なかったし、妹にも辛い思いをさせてきた

妹の友達は私が声が出ないことに対して、とても哀れんだ目で見た 

『香織ちゃんのお姉さん、声が出ないんだって
 おかしいよねー』

そう言われる度、香織は傷ついた
傷つき、怒りの矛先をどこに向けていいか
分からず、香織は初めて私に手をあげた

『お姉ちゃんがそんなだから私、クラスの
 皆に笑い物にされてるのよ!
 どうして…!』

そう言うと香織は私の体を押した
急なことでバランスを取ることができず、私は頭を打ってしまい、少し血が流れた

そのことに香織は驚き、音が大きかったのか
両親も駆けつけて香織を叱った

私は喋ることができないので、何も言えなかった
紙とペンでしか思いを伝えられない
こんな歯痒いことはなかった

(香織は悪くない 悪いのは喋れない私)

そう紙で書くと、母は泣き崩れた
それを機に私と家族は距離を置くようになり
食事以外は顔を合わすことがなくなった

高校3年生になった頃、クラスに転校生がきた
この出会いが私の日常を変えていった

クラスの皆は転校生の話題でいっぱいだ
男か、女か どんな子か

騒がしい中私は何も考えなかった
ただ、平穏な学校生活を送れればそれでいい

そして彼は現れた

彼は人懐っこい性格だった
男子からも女子からも好印象だ
彼は、陽と言うらしい
軽く自己紹介をし、先生に指示された席に座る

その席は私の隣だった
女子は羨ましそうに私を睨む
こういうのは慣れてるから気にもしない

彼は笑顔で私に挨拶をするが、私は喋れないから頷く だが、彼はその様子も気になるようで
紙で伝えようとすると

『優希さん、声が出ないんだよ
 こっちの言葉は聞こえるみたいだけど』

一人の女子が笑みを浮かべながら彼に伝える 
嫌味みたいな言い方をされたが、どうだっていい

だが、彼はその発言について怒った

『なんで笑いながら言うの?』

『えっ、だ、だって声が出ないなんて
 おかしいでしょ 普通じゃないし』

反論されると思わなかったらしく、自信なさそうに目を伏せながら言葉を紡ぐ

『普通じゃなかったらおかしいの?
 じゃあ、君が言う普通って何?』

その問いに答えるものは誰もいなかった

私はその言葉が嬉しくて、涙が出そうになるのを堪えた
誰も彼もが私のことをおかしい、普通じゃない
そう言うのが日常茶飯事だった

けど、この人は私をちゃんと見てくれる
それだけで嬉しかった

それから彼は私に話しかけてきて、お昼も一緒に食べてくれた
クラスの皆はまだ理解できないらしい

何故こんな私如きにって、女子も日々私を妬んでいたが、行動に移すことはないらしい

私も理解できなかった
喋れない私に構う彼に、筆談だって億劫だと思う

けど彼は笑顔で私に毎日接した
それが私には温かくて、彼は太陽な人だとそう思った

だから私は言ってみた
なぜ私に構うの、喋れる子と一緒のが楽しいと思うよ、と

けれど彼は首を縦に振ることはなかった
私は疑問で頭一杯になった

『例え、喋れたとしても優希さんを普通じゃない
 と差別する人達と仲良くなれるはずない
 仲良くする子は自分で選ぶから

 こう見えて人を見る目はあるからね』

最後に悪戯っぽく微笑む彼
きっと気を遣わせてしまったのだろう

そんな彼の気遣いに私も微笑み返した
きっと彼との関係が、友達と呼べるものだろう

(陽くん、ありがとう
 今更かもだけど私と友達になってくれま
 すか?)

それを見た彼は嬉しそうに微笑んだ

『うん、こちらこそ 
 優希さん、仲良くしてね』

最後の高校生活で、初めてできた友達
嬉しくて微笑んだ

けれど、彼が人には言えない思いを胸の内に抱えているとは、この時の私は想像すらもしていなかった