余命、三カ月。それが医者の診断だった。

 そんな俺が人と関わったら、関わり始めてすぐに死んでしまう。

 それは迷惑だ。

 だから俺は、もう人と関わることはやめると決めた。余命診断から二カ月、俺は人と関わっていない。

 それなのに、なんでだろう。

「君はなんでそんなに暗い顔をしてるの? もっと笑おうよ!」
「……」

 放課後の教室、君は俺に話しかけてきた。

 話しかけるなというオーラを全力で放っていたつもりだったのに。

 でも、長らく人と関わっていなかったから、少し嬉しかったんだ。

「頬、ちょっとだけ緩んだね!」
「……」

 それでも、俺に話しかけてきた彼女と、仲良くなんてなろうものには悲しませてしまうこと必至だ。

 俺は沈黙を貫いた。

「何か喋れない理由でもあるの?」
「……」

 それなのに君は、しつこいまでに話しかけてきて。

 一言くらいならいいかな、と。

「何か言ってくれないかな……?」
「俺は、あと一カ月で死ぬ」

 こう言えば、深入りはされないんじゃないかと思った。誰だって、すぐ死ぬ人と関わりたいとは思わないものだ。

「……病名は?」

 病名。

 病名を宣告された後に告げられた余命三カ月という言葉の印象が強すぎて、病名の記憶がない。

 なにか、完全にわかっているわけではない、みたいなことを言っていたような気はするのだが。

「わからない」
「そっか……。君があんまり喋らないのは、一カ月で死ぬから?」
「そうだ」

 実際に会話をしてみてわかったが、俺は会話に飢えているのに、長らく会話をしていなかったせいで、喋り方を、他人との距離感を忘れているようだった。

「悲しませたくないって思ってるの?」
「うん」
「私は悲しまないからね! だったら友達になってくれる?」

 俺は人と関わりたいと思っていて、それによる不都合は関わった人が悲しむことくらいしかなかった。

 だから、彼女と友達になることにした。

「わかった」
「よろしくね!」

 それから君は、異常な速さで距離を詰めてきた。それはたぶん、ゆっくり近づいて行っても俺が死んでしまうからだろう。

 俺には彼女の行動が心地よくて、憐れむばかりではなくて心を支えてくれたから、俺は短い間で急速に君に惹かれた。

「君は、死ぬ直前だっていうのにあんまり体調は崩さないんだね?」
「なんでなんだろうな」

 若くして死ぬ俺に、神様が与えた猶予か何かだろうか、そう思ったが、彼女はその言葉を求めてはいなかったので、口には出さなかった。

「まあ、私にとっちゃあ都合がいいや! 今日はなにしようか!」
「俺は――」

 俺は、病気があったからあえてここ最近は普通の少年や少女がやるようなことを避けていた。

 だけど君が俺を連れまわして、その間は普通の中高生になれた。

 俺は余命がわかってからは、人に迷惑をかけないように、ということが行動の大前提に置かれた。

 そんな俺だが、死ぬときは君に看取ってほしいと思った。

「もちろん、寝ずに君の横に座ることにするよ」
「ありがとう。重い仕事を任せてしまって申し訳ない」
「まったく、人の命を預かってるようなものだもんね?」

 月日はすぐに過ぎていき、君と過ごす一カ月はこれまでの二カ月より何倍も速く進んでいった。

 その間も俺が体調を崩すことは少なく、不思議でたまらなかったが、君との時間が減らないという点では良かった。

 だが――

「ちょっと、体調悪いかも……」
「大丈夫? ナースコールするね」

 息も絶え絶えで、意識を保つのもやっと。

 そこに割り込んだ映像は果たして白昼夢か、走馬灯か。

 どこかもわからない場所で、俺が君に愛を謳っている光景。俺が病気に罹っていなかったら実現したかもしれない未来。

 今となっては叶わない未来。

 そうだ、現実の俺にもまだやることが――

「好き、だ」

 言えた——