音大受験を決めてから、ピアノのレッスン日を増やした。ピアノ教室の先生はピアノ科ではなく、作曲科を志望すると伝えると驚いていた。けれど、俺の夢を応援してくれた。
それからは毎日慌ただしかった。もう三年の一学期も終盤、受験生としてはかなり出遅れたスタートになってしまった。
焦りを覚える時もあったけれど、朝、登校した時に生徒玄関の前であの絵画を見上げると、不思議と心は落ち着いた。俺は有名な絵画も画家も、技法だとか難しいことは何も知らない。けれど、絵について無知な俺でもあの絵がすごいというのは何となくわかった。学校に掲示された絵で、ここまで緻密で、繊細に書き込まれた絵を他に知らない。最初は写真のようだと思ったけれど、背景は薄暗くぼんやりとしていて、絵の少女は笑顔なのにどこかもの哀しく感じる。
どうして、この絵を見ると暖かいのに切なくて、寂しい気持ちになるのだろう。
ハマキメンカはどんな気持ちでこの絵を描いたのだろう。どんな子なのだろう。会えたら、伝えたい。俺がこの絵に救われたことを伝えたい。
そんな事を考えながら、毎日のように絵を見上げてから教室に向かった。
長い梅雨も終わりを迎える頃、たまたま、水曜日の放課後に音楽室の前を通った。いつもは合唱部で賑わっている音楽室は無人だった。そうか、水曜日は部活が休みなのか。ふと思いつき、勢いに任せて音楽準備室の扉を軽くノックした。部屋の中から「はい、どうぞ」と声がして中に入る。いかにも厳しそうな雰囲気で、スーツが似合う女性の先生がいた。音楽の先生は一年生の時とは変わっていて、知らない先生だった。
「あら、三年生ね。吹部?合唱部?どうしたの?」
「いや、普通に帰宅部なんですけど、ピアノを使わせてもらいたくて」
「音楽室のピアノ?ああ……君、一ノ瀬くん?音大志望っていう」
「あ、そうです。今日、レッスンが夕方で、ここのピアノが空いているならそれまで使わせてもらえないかと思って」
「使ってもいいよ。水曜日は部活が無ければ、音楽室は空いているから使いたければ使うと良い。誰かに何か言われたら、私から許可をもらったと言いなさい」
「ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げて、準備室を後にした。先生は「受験、頑張りなさい」と応援してくれた。
有り難かった。今まで水曜の放課後だけレッスン時間が遅く、家まで帰るにも時間が中途半端になるので学校で課題をしたりして時間を潰していた。学校でも練習ができると思うと嬉しかった。
さっそく、音楽室に入った。中は少し蒸し暑かった。雨が小降りになっていたので、窓を少しだけ空かせた。空いている机に鞄を置いて、ピアノの前に座った。鍵盤蓋を開け、十分ほど基礎練習で軽く指の運動をした。その後、鞄から楽譜を取り出した。
「どれを弾こうかな……」
レッスンで今日弾くことになっている曲にしようか。それとも、入試の過去門の初見曲を弾いてみようか。ぱらぱらと楽譜の束を捲っていると、ひらり、と一枚の楽譜が落ちた。拾い上げると、自分で書いた曲の譜面だった。家でも弾いてみたけれど、広い音楽室で弾いたらどんな響きだろう。拾い上げた楽譜を譜面台に置いた。
「まだ、曲のタイトルがないんだよな」
鍵盤の上に指先を触れるようにそっと載せて、息を吐く。透き通るような優しいメロディーを弾きたくてこの曲を書いた。楽譜を見ながら、こうした方がいいかな、とアレンジも加える。ペダルを踏み、指を軽やかに動かしていく。
今、何かで苦しんでいる人が、泣いている人が、この曲を聴いて少しでも穏やかな気持ちになれたら。そんな曲を創れたらいいのに。
願いを込めながら最後の一音を響かせ、そっと鍵盤から指を離す。
広い音楽室で弾くのは気持ちが良かった。それから水曜日は毎週のように音楽室のピアノを借りて練習した。
――まさか、真下の美術室で俺の演奏に耳を傾けてくれている人がいるだなんて。
そんなことは思いもしなかった。
梅雨が明けて、夏休みが過ぎた。秋になって、文化祭の季節になると受験で鬱々としていた周囲は少しだけ明るくなった。三年生にとっての最期の学校行事だからか、クラスメイト達は楽しそうに作業していた。俺達のクラスはたこ焼き屋台をすることになった。
指を怪我したくない俺は大道具や調理担当から外してもらい、買い出しと接客係になったので、文化祭当日は一日中、大忙しだった。一日目の昼過ぎには、両親に連れられて凛がたこ焼きを買いに来た。俺は驚き、嬉しくて泣きそうになったけれど、友人たちの手前、平然を装った。家に帰ってから凛に「また泣き虫してたね」と笑われてしまった。凛にはお見通しだった。
二日目も大忙しだった。夕方になって文化祭が終わりを迎え、名残惜しくも片づけが始まった。俺はガムテープやらまだ使える物品の入った重い段ボールを女子に押し付けられた。実技棟の倉庫へ向かう途中、美術室の前を通りかかった。
ふ、と足を止めた。
美術室では美術部の作品展をしていた。隣の書道室でも作品展をしている。
高校三年間、文化部の展示には興味もなく、見ようと思ったこともなかった。友人も運動部や軽音部などで、そういう展示に縁はなかった。中を覗くと部員が数名いたけれど、片づけは始めていないようだった。きっとまだクラスの片づけで手一杯で、人がまだ集まっていないのだろう。
入口の近くに立っていた部員らしき男子に声をかけた。
「ねえねえ、少し見てもいい?」
「別にいいですよ、まだ先輩たち来なくて片づけられないし」
そう言われて俺は段ボールを抱えたまま、遠慮がちに美術室に入った。傾き始めた夕陽で美術室は赤く染まっていた。
俺はそそくさと展示を見て回った。絵もあれば、彫刻などもあった。絵も画材が違うのか、どっぷり重い絵具が重ねてあるもの、水で伸ばした薄い絵具で描かれているもの。さまざまだった。最後に、一枚だけ他とはレベルの違う絵があった。それまでは数秒でさっさと次の絵に言ったのに、その絵だけは足を止めてじっくりと見た。それは縁側で寝転ぶ鯖トラ模様の猫の絵だった。毛の一本、一本が丁寧に書き込まれ、ふわふわした毛並みが今にも揺れ動きそう。先生が描いたのかなと思うくらいに、他とは素人目でも分かるくらいにレベルが違った。キャプションを見ると「浜木綿香」と書いてある。
「あの人の絵だ……」
俺が唯一足を止めたのは、ハマキメンカの絵だった。自分が部活をしていないから、彼女が美術部ということを今まで思いつかなかった。クラスの違う友人たちに「ハマキさんって知ってる?」と聞いて回ったことがあったが、知っている者はおらず、生徒数も多いので諦めていた。俺はさっき声をかけた男子のところに行って、もう一度話しかけた。
「あのさ、あの猫の絵って玄関の絵描いた人だよね?」
「そうですよ」
「今、ここにいる?」
「え?えーと……あ、あの窓際で先生と話している人がそうですね」
彼は俺の背後、窓のほうを指差した。俺は振り返って、彼が指さした方向を見た。ちょうど夕陽が差し込んで、逆光で顔がよく見えない。美術の先生と話すその子は、背筋がピンと伸びて、セーラー服の襟の上で長い黒髪を一つに束ねていた。夕陽が反射して、さらさらで真っすぐな黒髪は宝石みたいに輝いて見えた。
ほんの短い間、俺はじっと彼女を見つめた。
顔も見えないのに、綺麗だと思った。
しばらくして彼女は話しながら、先生と共に隣の準備室へ消えていった。結局、顔は分からなかった。彼女が見えなくなって、俺はようやく体を動かすことができた。自分でも訳が分からないくらい、心臓がどきどきしていた。ずっと会いたかったハマキメンカは、綺麗な髪をした女の子だった。
あの子が、あの絵を描いたんだ。俺を救ってくれた、あの美しい絵を。あの子が描いた。喉の奥が熱くなって、苦しいくらいの感情が込み上げてくる。
一目惚れなんて、したことはないけれど。
これが、この気持ちが一目惚れじゃなかったら、何なんだろう。
「良かったら感想書いて行ってください」
呆けている俺に、親切な男子部員は出口前の感想コーナーを指差して教えてくれた。机に箱と、感想用紙、鉛筆が置いてある。手に持っていた段ボールを床に置いて、俺は鉛筆を取った。彼女に伝えたかった。
君の絵に救われたこと。感謝していること。毎日あの絵を眺めて力を貰っていること。
顔も知らない、話したこともない彼女に伝えたいことがたくさんあった。彼女の絵が大好きだと伝えたくて仕方なかった。
「あ……」
俺は鉛筆を走らせる手を止めた。あなたの絵が好きです、と書きたかったのに、勢い余って「あなたが好きです」と書いてしまった。
机の上を見るも、消しゴムはなかった。
「……どうしよう」
読み返してみると、なんだか恥ずかしくてたまらなくなった。これじゃどう読んでも、ラブレターだ。あなたが好きです、その気持ちは嘘ではなかったけれど、そのまま箱に入れる勇気はなくて結局塗り潰して消した。その下に「あなたの絵が大好きです」と改めて書き直した。箱に感想用紙を入れて、教室をもう一度振り返るが、彼女の姿はなかった。俺は重い段ボールを再び抱え、美術室を出た。気恥ずかしくて、自然と歩調は速くなった。
夕陽に照らされた顔は熱くて、火照っていた。
それからは毎日慌ただしかった。もう三年の一学期も終盤、受験生としてはかなり出遅れたスタートになってしまった。
焦りを覚える時もあったけれど、朝、登校した時に生徒玄関の前であの絵画を見上げると、不思議と心は落ち着いた。俺は有名な絵画も画家も、技法だとか難しいことは何も知らない。けれど、絵について無知な俺でもあの絵がすごいというのは何となくわかった。学校に掲示された絵で、ここまで緻密で、繊細に書き込まれた絵を他に知らない。最初は写真のようだと思ったけれど、背景は薄暗くぼんやりとしていて、絵の少女は笑顔なのにどこかもの哀しく感じる。
どうして、この絵を見ると暖かいのに切なくて、寂しい気持ちになるのだろう。
ハマキメンカはどんな気持ちでこの絵を描いたのだろう。どんな子なのだろう。会えたら、伝えたい。俺がこの絵に救われたことを伝えたい。
そんな事を考えながら、毎日のように絵を見上げてから教室に向かった。
長い梅雨も終わりを迎える頃、たまたま、水曜日の放課後に音楽室の前を通った。いつもは合唱部で賑わっている音楽室は無人だった。そうか、水曜日は部活が休みなのか。ふと思いつき、勢いに任せて音楽準備室の扉を軽くノックした。部屋の中から「はい、どうぞ」と声がして中に入る。いかにも厳しそうな雰囲気で、スーツが似合う女性の先生がいた。音楽の先生は一年生の時とは変わっていて、知らない先生だった。
「あら、三年生ね。吹部?合唱部?どうしたの?」
「いや、普通に帰宅部なんですけど、ピアノを使わせてもらいたくて」
「音楽室のピアノ?ああ……君、一ノ瀬くん?音大志望っていう」
「あ、そうです。今日、レッスンが夕方で、ここのピアノが空いているならそれまで使わせてもらえないかと思って」
「使ってもいいよ。水曜日は部活が無ければ、音楽室は空いているから使いたければ使うと良い。誰かに何か言われたら、私から許可をもらったと言いなさい」
「ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げて、準備室を後にした。先生は「受験、頑張りなさい」と応援してくれた。
有り難かった。今まで水曜の放課後だけレッスン時間が遅く、家まで帰るにも時間が中途半端になるので学校で課題をしたりして時間を潰していた。学校でも練習ができると思うと嬉しかった。
さっそく、音楽室に入った。中は少し蒸し暑かった。雨が小降りになっていたので、窓を少しだけ空かせた。空いている机に鞄を置いて、ピアノの前に座った。鍵盤蓋を開け、十分ほど基礎練習で軽く指の運動をした。その後、鞄から楽譜を取り出した。
「どれを弾こうかな……」
レッスンで今日弾くことになっている曲にしようか。それとも、入試の過去門の初見曲を弾いてみようか。ぱらぱらと楽譜の束を捲っていると、ひらり、と一枚の楽譜が落ちた。拾い上げると、自分で書いた曲の譜面だった。家でも弾いてみたけれど、広い音楽室で弾いたらどんな響きだろう。拾い上げた楽譜を譜面台に置いた。
「まだ、曲のタイトルがないんだよな」
鍵盤の上に指先を触れるようにそっと載せて、息を吐く。透き通るような優しいメロディーを弾きたくてこの曲を書いた。楽譜を見ながら、こうした方がいいかな、とアレンジも加える。ペダルを踏み、指を軽やかに動かしていく。
今、何かで苦しんでいる人が、泣いている人が、この曲を聴いて少しでも穏やかな気持ちになれたら。そんな曲を創れたらいいのに。
願いを込めながら最後の一音を響かせ、そっと鍵盤から指を離す。
広い音楽室で弾くのは気持ちが良かった。それから水曜日は毎週のように音楽室のピアノを借りて練習した。
――まさか、真下の美術室で俺の演奏に耳を傾けてくれている人がいるだなんて。
そんなことは思いもしなかった。
梅雨が明けて、夏休みが過ぎた。秋になって、文化祭の季節になると受験で鬱々としていた周囲は少しだけ明るくなった。三年生にとっての最期の学校行事だからか、クラスメイト達は楽しそうに作業していた。俺達のクラスはたこ焼き屋台をすることになった。
指を怪我したくない俺は大道具や調理担当から外してもらい、買い出しと接客係になったので、文化祭当日は一日中、大忙しだった。一日目の昼過ぎには、両親に連れられて凛がたこ焼きを買いに来た。俺は驚き、嬉しくて泣きそうになったけれど、友人たちの手前、平然を装った。家に帰ってから凛に「また泣き虫してたね」と笑われてしまった。凛にはお見通しだった。
二日目も大忙しだった。夕方になって文化祭が終わりを迎え、名残惜しくも片づけが始まった。俺はガムテープやらまだ使える物品の入った重い段ボールを女子に押し付けられた。実技棟の倉庫へ向かう途中、美術室の前を通りかかった。
ふ、と足を止めた。
美術室では美術部の作品展をしていた。隣の書道室でも作品展をしている。
高校三年間、文化部の展示には興味もなく、見ようと思ったこともなかった。友人も運動部や軽音部などで、そういう展示に縁はなかった。中を覗くと部員が数名いたけれど、片づけは始めていないようだった。きっとまだクラスの片づけで手一杯で、人がまだ集まっていないのだろう。
入口の近くに立っていた部員らしき男子に声をかけた。
「ねえねえ、少し見てもいい?」
「別にいいですよ、まだ先輩たち来なくて片づけられないし」
そう言われて俺は段ボールを抱えたまま、遠慮がちに美術室に入った。傾き始めた夕陽で美術室は赤く染まっていた。
俺はそそくさと展示を見て回った。絵もあれば、彫刻などもあった。絵も画材が違うのか、どっぷり重い絵具が重ねてあるもの、水で伸ばした薄い絵具で描かれているもの。さまざまだった。最後に、一枚だけ他とはレベルの違う絵があった。それまでは数秒でさっさと次の絵に言ったのに、その絵だけは足を止めてじっくりと見た。それは縁側で寝転ぶ鯖トラ模様の猫の絵だった。毛の一本、一本が丁寧に書き込まれ、ふわふわした毛並みが今にも揺れ動きそう。先生が描いたのかなと思うくらいに、他とは素人目でも分かるくらいにレベルが違った。キャプションを見ると「浜木綿香」と書いてある。
「あの人の絵だ……」
俺が唯一足を止めたのは、ハマキメンカの絵だった。自分が部活をしていないから、彼女が美術部ということを今まで思いつかなかった。クラスの違う友人たちに「ハマキさんって知ってる?」と聞いて回ったことがあったが、知っている者はおらず、生徒数も多いので諦めていた。俺はさっき声をかけた男子のところに行って、もう一度話しかけた。
「あのさ、あの猫の絵って玄関の絵描いた人だよね?」
「そうですよ」
「今、ここにいる?」
「え?えーと……あ、あの窓際で先生と話している人がそうですね」
彼は俺の背後、窓のほうを指差した。俺は振り返って、彼が指さした方向を見た。ちょうど夕陽が差し込んで、逆光で顔がよく見えない。美術の先生と話すその子は、背筋がピンと伸びて、セーラー服の襟の上で長い黒髪を一つに束ねていた。夕陽が反射して、さらさらで真っすぐな黒髪は宝石みたいに輝いて見えた。
ほんの短い間、俺はじっと彼女を見つめた。
顔も見えないのに、綺麗だと思った。
しばらくして彼女は話しながら、先生と共に隣の準備室へ消えていった。結局、顔は分からなかった。彼女が見えなくなって、俺はようやく体を動かすことができた。自分でも訳が分からないくらい、心臓がどきどきしていた。ずっと会いたかったハマキメンカは、綺麗な髪をした女の子だった。
あの子が、あの絵を描いたんだ。俺を救ってくれた、あの美しい絵を。あの子が描いた。喉の奥が熱くなって、苦しいくらいの感情が込み上げてくる。
一目惚れなんて、したことはないけれど。
これが、この気持ちが一目惚れじゃなかったら、何なんだろう。
「良かったら感想書いて行ってください」
呆けている俺に、親切な男子部員は出口前の感想コーナーを指差して教えてくれた。机に箱と、感想用紙、鉛筆が置いてある。手に持っていた段ボールを床に置いて、俺は鉛筆を取った。彼女に伝えたかった。
君の絵に救われたこと。感謝していること。毎日あの絵を眺めて力を貰っていること。
顔も知らない、話したこともない彼女に伝えたいことがたくさんあった。彼女の絵が大好きだと伝えたくて仕方なかった。
「あ……」
俺は鉛筆を走らせる手を止めた。あなたの絵が好きです、と書きたかったのに、勢い余って「あなたが好きです」と書いてしまった。
机の上を見るも、消しゴムはなかった。
「……どうしよう」
読み返してみると、なんだか恥ずかしくてたまらなくなった。これじゃどう読んでも、ラブレターだ。あなたが好きです、その気持ちは嘘ではなかったけれど、そのまま箱に入れる勇気はなくて結局塗り潰して消した。その下に「あなたの絵が大好きです」と改めて書き直した。箱に感想用紙を入れて、教室をもう一度振り返るが、彼女の姿はなかった。俺は重い段ボールを再び抱え、美術室を出た。気恥ずかしくて、自然と歩調は速くなった。
夕陽に照らされた顔は熱くて、火照っていた。