「広瀬くんちょっと」
「はあい」
保健室の先生が声をかけると、やっぱり疾風は笑顔を作って消えていった。このままカウンセリングだったらいいけれど。
私たちは、同じ部屋にいながらも心と体という見えない壁で区切られている。
そもそも他人の身体や頭の中は、どう足掻いても覗けない。そもそも。
もし見せることができたって、私だって見せたくないしみんなだってそうだろうな。
白いカーテンの隙間から疾風と保健室の先生が見える。
笑顔の疾風に、心配そうな保健室の先生は、きっとなんでもない会話をしているのだろう。
窓から見えるくすんだ空は、今の私たちの心境を表しているようで、いつ大きな雷が鳴るんじゃないかと怯えている私がいた。
もうすぐ夏休みだって遠くないのに、夏休み前には教室に行けない自分にケジメをつけたいのに。
どうして、私は。
ううん。
私たちは、いつだってうまく前に進めないのだろう?
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