「できたー原稿! 誰にも見せてやらないけど」
「稔うるさい。誰も見たくないから」
「はあ!? そんなわけないだろ! 可憐」
「疾風が具合悪そうなのよ。黙って」
「あっ、はい」

 とある日。のんびり読書をしていた私は可憐ちゃんの言葉に反射的に疾風を見る。
 疾風は俯いた様子で教科書とずっと向き合っていた。

「可憐ちゃん、一体どうしたの? 疾風」
「サッカー部に顔出してきたみたい。まだ回復してないのに、律儀(りちぎ)だよね、疾風って。まず自分を優先したらいいのに。最初は良かったんだけど、長くいるうちに具合悪くなって倒れて保健室に運ばれてきたんだよね」

 疾風……私も不登校寸前の時はそうだったな。教室に行きたいのに行けなくて行こうとすると苦しくて。
 いろんな感情に押し潰されそうで常に吐きそうだった。
 特に責任感や義理(がた)い疾風だから。ずっと保健室だけにいることに耐えきれなかったんだ。

「話しかけると元気なふりするから、あたしは空気になってるところ」
「可憐ちゃん」

 そうだよね。自分が具合悪くしたことも知られたくないし、心配されたくないのが疾風だよね。
 男の子だし、最年長の先輩だし、そういう性格だし。
 プライドだって絶対あるから、そうだよね。私はそっとしとかないと。