「この話、明日花にはじめてしたんだ。なんか、よそよそしくされたくなくてさ」
「疾風」
「内緒だぞ」

 ヒソヒソ話をするみたいに、疾風は言った。

「……うん!」

 なんだか嬉しくて私ははにかんだ。
 疾風と、私だけの秘密。ふたりだけの特別。

「あーのー」
と、私たちが話していると、居場所をなくした飼い主さんが困ったように私たちを見た。
「本当にすみませんでした。お似合いの可愛いカップルですね。では」
と。

 真っ赤な顔をした疾風と多分同じ顔をした私は、無言のまま数分そこに立ちっぱなしになって。耐えきれなくなった私は、慌てて回れ右をして。

「ごめん、疾風、用事を思い出した!」
「あ、うん、またな。明日花」

 そして目が合えばお互いそらし合う。
 (たま)らなくなってそのまま私は走り出す。
 意識しちゃダメ。
 絶対意識しちゃダメだってわかってるのに、心の中に花開く感情があった。

***