「教室へ行かなければ、現実を見ないふりできる気がするんだよね。私」
「明日花ちゃん」
「この前さ。廊下にクラスメイトがいて、私が空気で、ショック受けたんだけど。教室にまた行かなきゃそれが夢だったって自分に言い聞かせられる気がして」
「そっか」
「馴染めないまま笑われて逃げて、そんな弱い自分も無かったことにならないかなって思うよ。今ここに、保健室にいる理由を忘れたいって思うよ」
「あたしも、そういうのはある」

 涙目になりながら、語る私。
 体が小刻みに震えているのが自分でもわかった。

「勇気をひとりで出すのが怖い。責任が全部私だけにのしかかるから」
「わかるけどね、明日花ちゃん。それでも、あたしの人生は明日花ちゃんのものじゃないし明日花ちゃんの人生はあたしのものになれないんだよ」
「うん、わかってる」
「お説教臭くなるけど、どこかで自分が頑張らなきゃいけない」
「知ってる。それなのに、目を背けてしまうよ。怖くて」
「わかるよ、明日花ちゃん。あたしもだから。さあやろう! でポンって簡単になんでもできない」

 そう。
 みんなそれぞれ悩んでいる。
 保健室の四人は、少なくとも悩んでいる。

 ううん? 
 もしかしたら世界の人間みーんなが悩んでいるんじゃないかな。
 何かしら、悩んで、(うな)って、苦しんで。そんな盛大なことを考えて、逃げてる場合じゃないのはわかるけど。
 悩みすぎるとどうしても自分だけ、自分だけって思ってしまうから。