「あー、疲れた」

 疾風がそう言って伸びをする。
 背の高い疾風は、隠れるときすごく不便だ。
 逆に小柄な可憐ちゃんはヒョイと(すみ)っこを見つけて逃げることができるけれど。

「さて、勉強するかな」

 教科書を元の位置へ戻して、疾風はテーブルの前に座る。それに私も続く。思わず全員がため息をつく。
 急に抜けた緊張感に、みんなの笑顔が戻る。
 保健室の先生は「いちいち気にしすぎ」と苦笑いをいつもするけれど、本人たちにとっては凄く大事なのだ。
 そりゃね。
 縄張り争いとは違うけれど。
 くつろいでいると、まるで自分たちの空間のように思えてもここは間借りしている保健室だってことを、こういう時に思い知らされる。

 ここは「私たちだけの場所」ではないのだと。

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