「なあ！　明日花！　いじめっこの名前を教えてくれないか！」
「パパ、やめて。声が響くよ」
「気にしなくていいだろう。なんたって絶対明日花は悪くない」

　私の事情も知らないままに、パパとママは暴走を続ける。

「そうだ！　クラスのみんなを呼び出して事情聴取をしよう！　いじめたやつは退学だ！」
「ちょ、パパ！？」
「いいわね！　そうすれば明日花は教室に通う元の真面目な明日花になるわ！」

　グサリ、と胸を抉(えぐ)るママの言葉。
　教室に行かなきゃサボりで不真面目なの？　
　そんな娘じゃ、ふたりは嫌なの？　思わず泣き出す私。

「ああ、つらいな明日花、パパもつらいぞ」
「う、ふ、え」
「大丈夫だからね、ママたちがいるわ」

　理解したつもりで、わかったふりの偏見だらけのパパとママに涙が止まらない。
　いじめられたからとか、サボりとか、そんな単純な理由じゃないのに。
　その場の複雑なカーストや雰囲気だってある。
　些細(ささい)な変化で教室へ行くのがさらに不安になって吐いたり……一度吐いたらまたそれを思い出して吐き気が込み上げたり。
　一言じゃ伝えれない。
　だからこそ苦しんでいるのに。
　怒りに燃えるふたりに私は涙が止まらない。

「助けて」

　思わず溢れた本音が小さく校長室に響いた時。

「やめてください！！」
「疾風！　可憐ちゃん！　稔！」

　バンと大きな扉が開いて、みんなが真顔で飛び込んできた。
　みんな汗だくで、可憐ちゃんに至ってはいつもおしゃれにしている髪が乱れまくっている。

「明日花さんは悪くないし、クラスのみんなも呼び出さなくていいです！　明日花さんは今戦っているんです。俺たちと」
「疾風」
「誰よ貴方。明日花の彼氏？　イケメンね」
「ママ！そんなわけあるか！　明日花につく悪い虫はパパが許さん！！」
「俺は、俺たちは明日花さんの友達で仲間です」

　騒ぐパパたちを無視して疾風は言い続ける。
　まっすぐ意志の強い目で私を見つめながら。その瞳は、涙ぐんで揺れていた。