「そういえば明日花」

 突然名前を呼んでくる疾風。

「はい」
「明日花は、これから少し下校時間ずらすといいよ。抜け道なら、教えるし」
「いいの!? 疾風」
「うん。俺はスマホあるし、そういうの分かるしね」

 ああ。なるほど受験生は塾とかのためにスマホがあるんだ。
 やっぱり大人だなぁ。

「僕だって仕事用にスマホあるぞ! 疾風!」
「はいはい、張り合わない。稔」

 呆れ顔の疾風に、稔は不満そうに膨れている。いいなぁ、仲良いなあ。私もなれるかな。
 可憐ちゃんと、こんな感じに。どう見ても私と可憐ちゃんじゃ釣り合わないけれど……。
 すごく可愛いし、明るいし、優しいし。対して田舎者で、陰気な私。
 オシャレを今からしても、所詮私のオシャレは田舎にあるブティックやまだの服しかない。店長の山田のおばちゃんはママの友達だからそこで買った服は大切に着なくてはいけない。
 私はこのまま、どうなってしまうのだろう。
 
 不安で不安で仕方がないまま、人気のない道を疾風に教えてもらって独りで帰った。
 よどんだ空から、ぽつぽつと私の涙のような雨が降ってきて、塩からい味を口の中に落とした。

***