「小花さん、何の本読んでるの?」

 突然、また別の可愛らしい女の子が声をかけてきた。
ほんのりお化粧したその子は少し濃いめのいい匂いがした。それに驚いた私は。

「実はうちも知らんげんて、新刊やから買ったんやし」
「げんて? やし? 何語?」

 しまった。また方言が出た。前もこれで、クラスの女の子にからかわれたのを忘れたわけじゃないのに。

「まあ、いいや。ねぇねぇ、何読んでるの?」

 繰り返すように、女の子が私に話しかけてきた。
 いつだって芸能人や、オシャレの話題で盛り上がっている、そんな明るいグループの子だったはずだ。
 彼女は私と違ってよく手入れのされた髪の毛は、元気に二つに()われて巻いている。まつ毛だって、多分何かしているのかクルリンと上がっていて目が大きく見えた。

「ねぇー、見せて。あーっ! この本!」
「え、あ。やめて、その」

 誰だっけ。この子の名前が思い出せない。よく彼女は私に挨拶してくれるけれど、返事ができない。
 誰に対しても気さくなあの子。
 そう思っているうちに、女の子はどんどん私に詰め寄ってくる。

「私もその本好きでさぁ。面白いよね、ヒーローなんか特に。勇気があってかっこいいよねぇ」
「そ、そうだね、ごめん、早く続き読みたくて」

 いやむしろ違う意味でごめん。私本当はまったく内容を読んでいないけれども。
 一生懸命方言が出ないように私は言う。頭では共通語が(しゃべ)れるのに、油断するとポロリと方言が出る、恥ずかしい。
 偏見(へんけん)だけれど、こんな今風な子でも読書とかするんだ。
 文庫本を売れ筋のコーナーからこの本を適当に買ったのがよくなかったのかな。
 きっとこの作品は、雑誌にでも紹介されたり、映画化発表でも知らないところでされたのだろう。あーあ。