足がモジモジと動き出す。ああ、トイレに行きたい。
 文庫本を借りて定期的に水分を取っていると、どうしたってトイレに行きたくなる。
 私は地団駄(じたんだ)を踏みたい気持ちになりながらくちびるを噛む。
 でもだ。
 ちらりと保健室の窓を見て、みんなの笑い声を聞くたびに身が縮まる。
 トイレに行くには、廊下を通らなければいけない。
 
「明日花ちゃん?」

 可憐ちゃんが私がオロオロするのを見て首を傾(かし)げる。
 前へ行ったり戻ったり。
 戸を開けたり閉めたり。

「どうかした? 明日花ちゃん」
「なんで、もない、よ」

 生まれたての子鹿の足取りで、私は半泣きになる。
 今日、授業を先生に休む事自体は報告してあっても、サボってしまった。
 そう思うだけで後ろめたくて、みんなの前に堂々と通ることができないでいた。
 あいつ勉強とかサボってるのにーとか、保健室デートとか、私の事を笑われるんじゃ。指差されちゃうんじゃ。
 そういう被害妄想が止まない。