教室に行けなくなった私たちが再び歩き出すまで


 うん、こういう笑顔が見たかったんだよね!
 女子生徒の頭を軽く撫でて私はにっこり笑う。

「ほら、授業に戻る」

 私は女子生徒の背中をトントンと叩いた。

「はーい。またね、広瀬先生。ありがとう」
「走らないようにね。転ぶから」

 笑顔で私はヒラヒラと女子生徒に手を振った。

「はあ。まだまだだなぁー私」

 保健室登校の男子生徒がカーテンから顔を出す。

「先生、元気出して」
「ありがとう。頑張る」
「俺は先生がいるから、毎日保健室に来てるんだからな」

 顔を赤くして男子生徒はボソボソ言った。可愛い。

「まあ、嬉しい。さ、自習進んだ? 見てあげるよ」
「これ。ここがわかんない」

 男子生徒はベッドの中からノートと教科書を取り出す。

「どれどれ、あ、合ってるよ。すごいじゃん、かなり進んでる」

 ノートを差し出されて私はそれに赤ペンで丸をつける。
 こんな風になれたのは、私を支える人々がいてくれたからだ。独りならきっと辿り着けなかった場所だ。
 絶望してつまずいたからこそ見つけた未来にとても感謝している。
 そりゃあ、痛みを知らないままの方が苦しくない人生でいられたかもしれないけれど。それでも、痛みや苦しみを分かち合える仲間がいたからこそ浮かんだ希望がある。
 今が良ければすべてよしなんて気楽に言いはしないけれど。