教室に行けなくなった私たちが再び歩き出すまで


「でも、私なんて特別仲良い友達すらいないし」

 女子生徒は不満そうにぶつくさ言った。

「これからだよ。不安だったらいつだって先生が相談になるからね」
「広瀬先生にはわかんないよ」

 ()ねてそっぽをむく女子生徒は可愛い。うん。
 私も若い頃はそう感じてたなぁ。
 大人にはわからない事も、確かに当時はいっぱいあった。

「先生だって、昔は友達がいなくて、保健室登校だったんだよ? 旦那さんだって保健室登校仲間だったんだから、誰だって幸せになるチャンスはあるよ?」
「あの広瀬疾風が!? 嘘でしょ!?」

 女子生徒は目を丸くして叫んだ。
 まあ、無理もないか。
 疾風は今で世界を飛び交う人気選手だし、ルックスのおかげでモデルだってたまーにだけれどやってる。多忙で人気者で国民の王子様的存在だ。

「嘘じゃないよ。誰だって人生に躓(つまず)いたり迷子になるんだよ。大丈夫。あなただけの悩みがあると思うし、つらいと思うけど私が力になれる事は精一杯力になるから、頼ってね」

 できるだけ柔らかい笑顔を意識して私は笑う。
 まあ、元から威圧感がなさすぎて舐められ気味の先生なんだけれどね、私って。
 うう。
 情けないったら。
 けれども、遠巻きにされたり警戒されるよりはフレンドリーにしてもらえるからいいのかな? なぁんて、ね。

「わかった!」
 
 元気いっぱいの笑顔に、私も励まされる。