教室に行けなくなった私たちが再び歩き出すまで


 のどかな春の始まり。四月。桜舞う頃いつも私は保健室での青春を思い出す。
 あの頃の私を、今大人になった私は助ける事はできない。
 だけれども、大人になった私にしかできないことを、私は見つけた。

「広瀬先生! 広瀬明日花先生!」

 自分の名前を呼ばれたことに、数秒の間の後気付いて声を出す。

「ハイッ」
「もう、何こんなところで仕事サボってるんですか!」
「すみません、あまりに桜がきれいだったので窓の近くで見たかったので」

 私は顔を熱くして慌てて配属されて数年経つ中学校の廊下で振り向き言った。

「まったく、子どもじゃないんですから。ていうか、いい加減新しい自分の苗字に慣れてくださいよ。いつまでみんなに小花先生って呼ばせる気ですか」
「すみません、まだ実感がなくて。大好きな中学時代の先輩と結婚したとか」

 本当、夢のようで。

惚気(のろけ)です? いいから保健室に戻ってください。女子生徒が体育で擦(す)り傷だって」
「はい、わかりましたっ」

 あれから。私は保健室の先生になるために頑張って、母校に戻ってきた。
 懐かしい保健室。
 疾風たちと過ごした青春の思い出がぎっしり詰まっている大切な思い出の場所。
 慌てて擦り傷の処置をして、生徒の愚痴を聞く。