「大丈夫、すでに気持ちが嬉しいから」
「本当? 恨んでない? 明日花ちゃん」

 心配そうに友希子は尋ねる。

「なんで私が友希子ちゃんを恨んでるの?」

 困惑する私に、友希子は首を横に振る。

「明日花ちゃんを助けられなかったんだよ。うちは。教室のみんなも誰も明日花ちゃんにも樋口君にも手を差し伸べなかったんだよ」
「……でも、私もそこで戦わなかったんだよ」
「ひとりぼっちで戦うなんか無理だよ、誰でも」
「それでも。私が教室で誰かに助けてって叫んでたら、違ってたかもしれないし、終わったことだから」

 つらかったけれど、もう振り返ったって何も得られないから。
 私は、前へ進むよ。

「強いね、明日花ちゃん」
「ううん。ただ強くなっただけだよ」

 それも、ひとりきりじゃなくみんなが側にいてくれたからだけれど。
 教室や学校がすべてじゃない。それを保健室で私は理解することができたから、気が楽なのかもしれない。
 だけれど、そうじゃない人の方がきっとこの年頃ではもっとも多くて。
 教室という名の椅子取りゲームに必死に参加しては嘆(なげ)いて、うめいて、苦しんでいるのだろう。
 そんな狭い場所で苦しんでなくてもいいのに、と今なら言えるけれど……保健室に来るまでの私には、そんなの綺麗事にしか聞こえなかったんだろうなあ。
 それに、その他の場所を用意できる人ばかりじゃない。ひいやなら、お姉ちゃんって人がいるにはいるかもしれないけれども。
 もしその場所があっても、いじめは絶対許してはいけないし、学校という場所は義務教育であるからにして通う権利があり、必要性もしっかりとあるのだ。