三年生のクラスに入る前、廊下で疾風を囲む集団があった。
 背の高めのしっかりとした体格の男の子だらけで、いかにも運動部にいそうな感じの先輩たちだった。
 疾風だけが肌が白く見えるのは、他の子が色黒なせい。保健室登校のメンバーでは、疾風でも十分色黒だったのにな。
 私は気配を消して、その場の柱に身を隠す。そこからそっと顔を出して疾風たちの会話に聞き耳を立てる。

「なぁなぁ、疾風。これ面白くねぇ?」
「あーうん、そうだな」
「これはどうよ疾風」
「いや、こっちの方だろ疾風!」

 何だこれは。疾風の機嫌をみんなで取り合っている? のかな。
 疾風は困ったように笑っているし、別に特に不機嫌ではなさそうなんだけれど。むしろ疾風はひどく困惑している様子に見えるけれど……。 
 みんなが雑誌やスマホを片手に疾風疾風と名前を呼ぶ異様な光景。
 うーん。なんだか疾風の表情も疲れ気味。
 なんていうか、これじゃ疾風が腫れ物扱いな感じ?
 しまいには胃が痛くなりそう。全員。私なら教室から逃げ出したくなるよ、これ……。
 疾風はたびたび困ったように笑ってばかりで、たまにみんなから目を逸らしてはそれを繰り返していた。
 そして深く息を吸うと。

「もうやめてくれ」