熱なんかあるはずない。
私だってわかってる。私の体調不良は仮病そのものなんだから。仮病なんて、恥ずかしいことだって私はしっかり知ってる。
それでも、私は病気になってでも学校に行きたくなかった。
「行きたくない」と素直に言えるほど強くなかった。逃げる勇気もなかった。怖かった。
周りに失望されるのが心底怖かった。パパ、ママががっかりする顔を見たくなかったし心配をかけたくもなかった。「普通の明るい女の子」でありたかった。普通なんか何かも知らないくせに。
道を外れたことのない私は、外れそうになるのが極端に怖いのだと思う。
「ない、です。熱」
首を横に振る私。
「先生。明日花。熱ないって」
私の世話はどうやら疾風先輩が率先してやってくれるようだ。
なんだかそれが嬉しくて、恥ずかしい。
「ところで可憐、稔。明日花に自己紹介は?」
疾風先輩は残りのふたりに声をかける。
ふたりは互いに顔を見合わせ、美少女の方から私を見てから口を開いた。