教室に行けなくなった私たちが再び歩き出すまで

「おはよう、小花(おばな)さん」

 朝。教室へ入ると、クラスの女の子が私を見て笑いかけてくる。

「あ、え」

 あ。ダメ。まただ。(のど)の奥まで出かけているのに。また「おはよう」の声が私の喉から出ない。
 前まで私が住んでいた村にいた時はあんなにも自然にみんなと普通に挨拶(あいさつ)ができたのに。
 クラスメイトを前に心と顔がひきつってしまって、つい泣きそうになる。
 そのまま教室の前に立ちすくんだまま、私は(うつむ)いてしまう。

「あ! みんな! おっはよー!」

 そんな私をまったく待たずに、クラスメイトは次の子に声を()ける。

「遅かったじゃん」
「テレビ見てたらちょっとね」
「わかるー。朝からのユウくんが出てるテレビ面白いよね」
「あー! ユウくんってちょっと三年の疾風(はやて)先輩に似てるよね」
「わかるー! 背が高くて爽やかなイケメン」

 私も見てたよ。あのチャンネルのでしょ? すごく面白かったよね。私も毎週欠かさず見てるんだ。ユウくんってすごくカッコいいよね。わかるよ。

 けれども私、疾風先輩はわからないけれど。疾風先輩って誰? 教えてよ。私も知りたい。ねえ、私にも教えてよ。
 そう素直に声に出せないまま、私は彼女たちを見つめる。
 すると、彼女たちと視線が合いそうになり、(あわ)てて視線を泳がす。耐(た)えられない。無理。

……そして私は空気になる。

 地元にいた頃の明るかった私はどこに消えてしまったんだろう。
 私は一度も読みもしない文庫本の間に顔を埋めた。
 顔を上げればみんなが教室の中でキャッキャッと楽しそうに笑っている。
私も引っ越すまで……小学六年生までは、ああいう輪の中にすんなり入れた。
 田舎にあった私の学校は、みんなが幼馴染(おさななじ)みだったから。一瞬田舎のみんなを思い浮かべながら、あの子たちは元気かなあ? なんて思いながら何となく文庫本を開く。