「やめてっ！　ボクのクマちゃん返して」
「ハンッ、やだよーキモ樋口。誰がこんな汚いやつ返すかよ。そもそも中学にぬいぐるみ持ってくるなよ。ありえねえんだよーキッショー！！」

　高い男の子の声と、男の子と女の子の大量の笑い声。
　ギャハハと下品なぐらいに響き渡るその声に私は足を止める。
　何これ。何これ。何これ。

　遠巻きに教室を覗いてみる。
　そこには可愛らしい色素の薄い小柄な男の子が、クラスメイトに囲まれていた。
　真ん中に大柄な、ボスっぽい男の子がいて、見ているだけで意味を察した。

　いじめだ。これは、いじめの最中なのだ。
　そういえば、クラスにぬいぐるみを持った大人しそうな男の子がいた気がする。
　
　あの頃はまだこんな風ないじめなんてなかった。
　みんな教室に慣れる事で精一杯だったのかもしれない。
　私だって樋口って子についてあまり覚えていないし、大きな男の子についても覚えていない。