「逃げたかったらあたしの教室においでよ。明日花ちゃんなら大歓迎だよ、あたし」
「可憐ちゃん、いいの?」
「もちろん。明日花ちゃんはひとりなんかじゃないよ。教室や学年は違っても、みんながいる。みんな大事な最高の仲間じゃん、あたしたち」
「……うん、そうだね」

 どうして小難しく考えて逃げていたのだろう。
 答えはひとつしかないのに。

「みんなで頑張ろう。可憐ちゃん」
「うん、明日花ちゃん」

 ずっとずっと私たちは保健室でくすぶってきた。苦しんできたし泣いてきた。
 そろそろ外で笑ってもいいんじゃないかな。
 誰も責めないよ。
 ううん、責める奴がいたらそいつが悪い。
 誰だって笑顔で人生を楽しむ権利はある。
 他人は他人だもん。人の幸せを踏み荒すようにいじめたり、嗤(わら)ったりするのは最低な行為だ。
 私たちは、それをされる人の痛みを知っている。

 だからこそ、できる生き方もきっとあると思う。弱さも痛みも苦しさもいっぱい味わった。
 だからこそ些細な幸せがおいしく感じられる。だからその幸せという栄養や勇気をいっぱい食べて、可憐ちゃんたちにも分けていくべきなのだ。

 人間はひとりだけじゃできることに限界があるって、不登校になって正直感じた。悩んでも聞く相手もいないし、つらいとき泣きつく相手もいない。それって結構深刻な事。私は都会に来て、ずっとそうだった。
 でも、保健室にいてからは、そうじゃなくなった。