「はあっ」

 深呼吸をして、立ち上がった時だった。
 ピンポン、とチャイムの鳴る音がした。来客だろうか。
 しばらくママが応答する感じの声が遠くでして、とりあえず気配を消す。
 どうせ私には関係ない来客だろう。そう思っていたのに。

「明日花! 明日花! 可憐ちゃんっていう、学校のお友達よー」

ママが跳ねるような声で嬉しそうに一階から叫んだ。声がうわずって、はしゃいでいるのがよくわかる。

「!? 可憐ちゃん!?」

 私は思わず裏返った声で叫ぶ。
 どうして、可憐ちゃんがここに?
 そりゃ今日は日曜日だけど。
 胸がドクンドクンと高鳴る。
 私のために、可憐ちゃんが家まで来てくれたのだろうか。
 そう思うと嬉しくて落ち着かない気持ちになった。

「行く! 会う! 着替えるから待っていてもらって」

 私は困惑しながらパジャマを脱ぎ捨てる。長い事着なかった私服に袖を通して、髪の毛も綺麗に整えた。
 私服で友達に会うなんて、かなり久しぶりだ。
 ちょっとだけおしゃれなワンピースに袖を通し、小洒落たヘアピンもつけている。
 けれど、冷静になって今の私は不登校でひきこもりなのだと思い出す。
 
 浮かれていてはいけない立場、なのかもしれない。でも。
 私だってオシャレしたいし、そんな事を可憐ちゃんが気にするとは思えない。
 バタバタと階段を降りて客間に向かう。