私なんか田舎にいればそれなりの人生を謳歌(おうか)できるスペックだったんだろうなあ。
それが何かの間違い、いやお父さんの仕事で都会に来ちゃったから詰んだんだ。
きっと両親がそっけないのも、それがわかっていて後ろめたいからだろう。
さあ、帰ろうなんて言えないからだろう。わかっている。わかっているよ。
全部が思い通りに行けばいいのに。
リア充や陽キャに化けてみたい。
あの人たちはきっとスタートからキラキラしているんだ。
「まだ十一時か」
ボソリと時計を見てつぶやく。本当に、一日が長い。
「稔、トランプしよう」
「いいけど、どうせ飽きるぜ」
「まあね。ふたりだもんね。ババ抜きなんかすぐわかるし」
「いや、明日花。欠点はそれだけじゃない、なんか明日花に無性にイライラするし」
「わかる。敵は常に相手だけだからね。オセロも飽きたし」
まあ、仕方がないよね。ふたりきりだもん。
「でも、外へ行った無意味な努力してるふたりよりマシかなって私は思うよ」
「んだよ、それ」
「え?」
「明日花。もう一度言ってみろよ」
「だから、無意味な努力しているふたりより私たちがマシかなって」
バアアン、とトランプが宙を舞った。私は呆然とする。
稔の前髪の下の素顔が剥き出しになるぐらいの勢いだった。
前髪の下の目は鋭く吊り上がり、私を睨みつけていた。