稔の声で足を止めると。
 そこには、ひとりぼっちの可憐ちゃんが教室の椅子に座って無言でまっすぐ前を見ていた。
 寝たふりもせず、本を読んで誤魔化そうともしない。可憐ちゃんは、無言で戦っているのだ。
 可憐ちゃんの周りにはどこか故意的な空白の空間があり、誰も近寄ろうとしていなかった。
 チラチラと真由が可憐ちゃんを見ては満足そうに笑っている。
 それでも可憐ちゃんは目をそむけずに、真由が可憐ちゃんを見れば目を合わす。

「帰るか明日花」
「うん、そうだね。稔」

 私たちはそう言ってすぐに踵(きびす)を返して教室に向かった。
 現実を突きつけられたと共に、可憐ちゃんはすごいなと心から思った。
 廊下から見えるピカピカの太陽が、さらに遠いものにも思えた。


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