ダメだ。
 私の言葉なんか聞いてない。
 真っ赤な顔をして叫ぶ稔にかける声もなくなる。
 今は何を言っても無駄だろう。

「どうして、行っちゃったんだよ。僕たちを置いてくなよぉ」

 次第に元気をなくしダンゴムシのようにしゃがみ込む稔。

「ずっと、一緒にいたかったのに」

 小さな声でそう呟き泣きじゃくる稔に、紅茶を差し出す。

「ありがとう、明日花」
「ううん。気持ちはわかるから」

 痛いほどに、わかるから。
 つらいよね、苦しいよね。大好きな友達を失う気持ちは、何事にも変えられない痛みがあるよね。
 引っ越しの時だって、この気持ちは味わったからわかる。
 世界に疾風も可憐ちゃんも稔も、そして私もひとりきりしかいない。代わりなんかいない。
 だからこそ、失うと悲しいんだ。世界中の人、みんなそれぞれひとりきり。それぞれ大切な人間なのだ。
 それが、こう言う時に特に痛感する。
「それに、疾風や可憐ちゃんならきっと頑張ってるよ。大丈夫だよ、稔」
 私は稔の頭をポンポンする。