「あたし、卒業したら何にもなれないのかな」
「え?」

 可憐ちゃんが唐突に怖いセリフを言うので私はギョッとする。

「何でもない、気にしないで」
「あ、うん」

 そう言われてしまえば深追いできるわけもなく。
 何も気づかない稔の原稿を覗き込みに私は移動するしかなかった。

「稔。原稿見せて」
「いいけど、汚すなよ明日花」

 稔の原稿は相変わらず繊細で少しグロく、このままただ漫画を続けるだけで将来の道筋が決まっている稔はいいなと思った。
 まだ、稔の二作目掲載はされていないけれど。ストーリーの闇深さと意味不明さが直れば多分、どうにかなるしね。

「うわっ、涙を落とすな明日花」
「え、私、泣いていた?」
「机の上に涙、落ちているだろ。明日花」
「ご、ごめん。稔」
「ほら、ハンカチ!」
「稔、ありがとう」

 私たちは、何にもなれないのかな。
 夢は、選べないのかな。
 好きなものも見つけられないままなのかな。
 疾風のそばに駆け寄って「お待たせ」なんて言える日は来ないままなのかな。
 何だか最近、普通の中学生が私たちとは違う別の生き物に思えてくる。
 前まで同じカテゴリだったはずなのに、もう戻れない気がする。

 教室にいる子たちの味わった青春は、いなかった私たちはもう味わえない。
 今戻ったところでその空白は埋まらない。そう思うとどんどん怖くなる。
 でも、それは一日ずつ大きな空白になっていくって、頭ではわかっている。