疾風がいなくなってから、保健室はやっぱりいつもと違う空気が流れていた。
なんだか雑談も緊張して、ぎこちないし楽しくない。
はあ。なんだかいるだけで疲れてくる。空気にまるで何か仕込まれているかのよう。

「おい、可憐。消しゴム、床に落ちているぞ」
「あ、うん。ありがとう稔」

せいぜい交わされる会話はこれぐらい。でも、消しゴムを拾う時も、そそくさという感じで、声を掛け合うこともない。
私も、そこに混ざる感じにはなれない。
いつも通りに紅茶を淹れる時だって、自分の分だけ。
誰かに「いる?」なんて聞く人はいない。みんなが何かに怯えているような、そんな感じ。
その何かが何かは、私はわかっている。

別れだ。
仲良くなればなるほど、別れはつらいとわかってしまったから。
だから、私たちは故意に距離を置いた。