私が同じ立場ならやっぱり相談しないと思うから。
 きっと疾風は優しい言葉が欲しかったわけじゃない。 
 だけれど。

 確実に勇気づけられる人は、ここにはいない。
 保健室の先生すら、優しい言葉をかけるかもしれない。
 広くて狭い教室に帰った疾風は、今何をしているのだろう。
 クラスメイトに物珍しがられて囲まれているのだろうか。
 それとも、気を遣われて一人ぼっちなのだろうか。
 
 私にはその様子を覗きに行く勇気なんかない。
 疾風は、その私たちの出せない勇気を出した。だから、勇気を出せた人にかける応援セリフなんてあるわけなくて。
 だけれど、怒っているふたりにそんな正論を言えば、保健室内で揉めることになる。

 だから、私は黙って椅子に座って机にうつ伏せた。
 疾風。疾風。疾風。
 頭の中いっぱいに疾風の名前が浮かんでは頭から消える。
 時計の針が動く時間が異常にゆっくりして思える。
 今まではあんなにもあっという間だったのに。それはきっと、疾風が保健室から消えたからに違いない。

 ポッカリと心の中に空洞ができたかのような寂しさ。
 それに身体中の力が抜けていく気がする。ドロッと苦いものが口の中に溢れている錯覚さえ覚える。

「本当、疾風のバカ」

 可憐ちゃんがボソリとつぶやくのを無視して、私はため息をついたのだった。

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