あの後すぐに疾風を追いかけられる人は誰もいなくて。
 疾風がすぐ戻ってきた後、扉を開け直して。

「俺、みんなには本気で感謝しているし、みんながいたから教室に戻る勇気をもらえたんだからな」

 と言って去っていくのも、やっぱり誰も追いかける事はできなかった。

「ほら、みんな落ち着いて」

 保健室の先生が紅茶を淹れてくれた。大人しくそれを受け取る私たち。
 みんなボンヤリしてどこか気力が抜けたようだった。

「疾風、いなくなっちゃったね。そういえば、保健室の荷物も朝にはなかったよ」
「可憐ちゃん、気づいていたの?」
「うん。明日花ちゃん。嫌な予感がして、言わないでいたけどね」

 いつも疾風が座っていた席の周囲には、確かに荷物は何もない。それどころか紅茶用のマグカップすら、見てみると置いていなかった。これは計画的な行動なのだと思い知る。
なら、きっと疾風はここに帰ってくる事はないだろう。胸がギュッっと絞られるように痛い。疾風にはもう、会えないんだろうか。嫌だ。会いたい。

 だけれど、その勇気はカケラもない。疾風の事が好きなのに、そんな情けない自分に涙が出そうになる。

「だけどさ。僕たちに相談ぐらいしてくれてもいいと思わないか」
「その通りだよ、稔。あたしたち友達じゃないのかな。そんなに頼りないかなぁ」

 稔と可憐ちゃんの意見もごもっともだ。私だって相談ぐらいされたかった。
 いきなりすぎて裏切られたような、頼られなくて悔しい気持ち、だけれど。
 疾風の気持ちもわからなくもないんだ。
 相談したら、甘えた気持ちが出てきそうな気がして。