あの後疾風が何か言おうとした瞬間、稔が立ち上がった。

「なんでなんだよ!? 受験生だからか! でも、受験先に受かればずっとここにいればいいだろ!? また体調とか崩したらどうするんだよ。台無しだろ!?」

 畳み掛けるように叫ぶ稔は悲痛な表情をしていた。

「疾風がいなくなるなんて嫌だよ! なぁ! 可憐!」
「うん。寂しいし今さら教室へ戻ったって傷つくだけだよ」
「そう! 俺らは教室にいらないの! いるとしてもサンドバックだったりするわけで。疾風は腫れ物扱いされるしつらいだけだよ。なあ。明日花!」
「え、あ」

 私は何も答えられない。
 疾風が教室に戻る。
 それはいつかきっと起こるとはどこかで思っていた事態。
 そして本当は喜ばしい事態。
 だけれど、私たちは怖いのだ。
 またさらに深く傷つき立ち直れなくなる疾風を見るのが、怖くてたまらないのだ。
 今のギリギリの精神状態でさらに傷を負えば保健室にすら戻れなくなる。
 そんな恐怖があるのは私自身もそうだ。