「ない。自分の事でいっぱいだったから」

 そんなに人気者だったんだ。疾風。
 モテてるのは噂で知っていたけれど。
 でもまあ、そうだよね。あの性格とルックスで、運動ができれば……。
 何となく私なんかじゃ釣り合わないとか余計な事を考え出す私。
 ダメダメ。
 そんなこと考えたら。

「自分の事かぁ」

 可憐ちゃんがボソリと言ったのでドキリとする私。
 そう。私たちは疾風の事で騒いでいる場合なんかじゃないのだ。
 それぞれが本当は教室へ戻るための努力をしなきゃいけない身分なのだ。

「ただいま。みんな」

 なんて考えると疾風が戻ってくる。やっぱりどこかお疲れモードだ。

「「「おかえり疾風」」」
  私たちは一斉に返事をする。

「なんでみんなそんなに俺を見るんだ」
「別にぃ」

 可憐ちゃんがわざとらしく誤魔化す。稔は目を逸らし私は笑顔を作る。
 疾風は首を傾げて席につく。そしていつも通りノートを広げ勉強を始めた。
 どこか意志の強くなった目線でノートを見る疾風を見ると、私は少しドキドキした。