「ほら、みんな座って」
「はあい。ママ」
「パパも」
「はいはい、わかったよママ」

  食卓に座って、みんなでいただきますと言う。
 今日はやっぱりサッパリした和食だった。焼き魚にみそ汁に、ご飯に、シーチキン入りのサラダ。あと漬物。シンプルだけれど、我が家の定番のメニュー。
 ドレッシングも手作りなのが、こまめなママの自慢。
 若くして奥様になったママは、素朴な見た目だけれど、中身も想像通りに家庭的だ。 
 いい意味で言えば、パパもママも地味で真面目。
 悪く言えば垢抜けず、とても田舎臭い。

「しかし、まあ。パパも明日花の学校生活が順調そうで何より!」

 結局座ってもパパは(さわ)がしい。パパは普段(ふだん)は仕事で滅多(めった)に帰れないし、ご飯も一緒に食べられないから仕方がないけれど。

「パパ、うるさいよ。ご飯冷めちゃうよ」
「そうだけどなー。明日花」
「ほら、食べなよ。美味しいよ?」

 嫌だ。嫌すぎる。もう、本当はこんな話題なんて聞きたくない。
 吐き気がする。逃げたい、死にたい。いや、あと数秒で心が死ぬ。

「パパは正直心配してないんだ。明日花なら絶対すぐ馴染めると思っていた。なんたって俺の子供だからな」
「まあ、私の子供よ」
「本当、昔から明日花は明るくて。本当にいい子で誰からも好かれる自慢のうちの娘だもんな!」
「あは」

 そこで私だって嘘でも偽物の友達の話ができればいいのに。私はそんな気力すらないぐらい、メンタルがゴリゴリ削れていた。
 そんな時、ニュースが最悪なネタを報道しだす。

『いじめで不登校に追いやられた少年が自殺したことを、●●県教育委員会が隠蔽(いんぺい)していたことが発覚しました』
「ごちそうさま!」

 ガタンと露骨に音を立てて席を立つ私。