疾風がひとり、どこかに消えることが増えていった。
 多分進路指導室だろうか。
 誰も聞かずにそっとしているけれど、それでも保健室ではいつもの疾風だった。
 疾風はみんなの分の紅茶を淹れてくれたり、掃除を率先してやってくれたり、笑顔で色々面倒を見てくれる。
 だけれど来年は、疾風はこの学校にいない。
 そう思うだけで私はなんだか泣きそうだ。中学を卒業してもまた私たちと会ってくれるだろうか。
 聞けばいいのに、私は拒絶されるのが怖くて聞くこともできない。
 眩しい太陽や青い空はいつまでも私たちを煌々(こうこう)と照らしているのに私たちはどんどん変わっていく。
 いつまでも中学生のままではいられないのだ。
 高校生に、私たちは今から大人に、変わっていかなきゃいけないのだ。

「疾風、図書館行こう」
「明日花。最近読書にハマってんだな」
「うん。シリーズものを借りてるから、早く続きを読みたくて」
「なるほどな。今度俺にもおすすめ教えてくれよ」
「わかったよ。でも、恋愛ものだから疾風は興味ないかも」
「俺だってちゃんとあるけど? 恋愛に興味ぐらい」
「え」