(今日から二学期・・・。ペア画のことを思うと学校行きたくないな)

 足取りはいつになく重いが、学校を休むわけにはいかない。私の親は学校を許してはくれないから。

 教室に着くと、もう美海ちゃんと杏菜ちゃんは来ていた。ここで避けたらもう2人と話せない気がした。

「お、おはよー」

 だから勇気を振り絞って声をかけた。あくまで自然に。いつも通りに。どうかリュックの紐をぎゅっと握りしめていることに気づかれませんようにと願いながら。

「あ、綾乃ちゃんおはよぉ」
「おはよ〜」

 帰ってきた挨拶もいつも通りだった。私に対し、なんの罪悪感も後ろめたさも抱いていない。

 やっぱり私の予想は当たっていたようだ。
 2人にとっては"2人で"いることが"当たり前"で、私はいてもいなくてもいい存在なんだ。話しかけてもいい。話しかけなくてもいい。
 いっそのこと嫌われた方が楽だったかもしれない。
 自分の存在理由が曖昧になっていく。

 昼休みになると、私はひっそりと校舎裏へ向かった。2人と一緒にいるのも、教室では一人でいるのも耐えられなかったから。
2人に呼び止められることはなかった。
 私の様子なんて気にもせずに、楽しそうに話していた。その態度も悲しい。

 あぁ私めんどくさい。
 人目につかないところまで逃げると1人でうずくまった。
 このまま何もしたくない。
 家に帰りたい。

────私の居場所が欲しい。

「なーに1人で泣いてんだよ」

 上から声をかけられた。その声を聞いて不意に泣きそうになった。

「圭・・・」

 来てくれた。わたしの異変に気づいて、校舎裏まで追いかけてきてくれたんだ。

「な、泣いてないから!勝手に同情はやめてよ」

 それでもわたしな素直になれない。だって、グループに馴染めたいだけでこの世の終わりみたいに感じている私がちっぽけで、弱く見えるから。

「何かあったのか?宿泊研修辺りから様子変じゃね?」

(気づいてくれてたんだ・・・)

 圭は私と隣に腰を下ろした。そのまま何も聞かずに黙り込む。圭は私が話すことを待ってくれているのだ。

 最近過ごした時間の中で、もっとも安心できる。今更ながら幼なじみの存在の大きさを実感した。

「別に大袈裟なことじゃないんだよ?でも、えっと・・・実は・・・・・────」

 私は美海ちゃんと杏菜ちゃんとの今の関係とまゆかに新しい友達が出来たことを話した。圭は静かに聞いてくれるから話しやすい。

「始めはただ単純に一緒にいるのが楽しかった。けどどんどん居づらくなって、私がいなくても何も変わらないんじゃないかって・・・なら何で美海ちゃんといたかったんだろ・・・」

 話せば話すほど気持ちがこんがらっていき、その答えが遠ざかっていく。
 私が言葉を詰まらせると、圭がようやく口を開いた。

「そんなのよく分かんないけどさ、結局綾乃はどうしたいんだ?」

(私が、したいこと・・・それは)

「私は美海ちゃんや杏菜ちゃん、好きだよ。けど・・・今の関係のままじゃ苦しくなるだけだから、関係を変えたい・・・かな」

 具体的にどうすればいいのか分からないけど、と付け加える。

「なら、1度離れれてみれば?離れて客観的に見たら自分の気持ちがわかりやすくなると思う」

 圭はなんてことないように言った。

(離れる・・・か)

 その選択肢は私の中にはなかった。
 ただこのまま苦しい時間に耐えていくものとばかり思っていた。そうでもしないと私は一人になる恐怖に押し潰れてしまいそうだから。
 でも第三者から言われるとすんなりと私の中に入ってきた。いや、圭が言ってくれたからかもしれない。

「・・・そっか。ありがと!元気でたわ。やっぱ何だかんだ言って圭は優しいね」
「いや俺はそんなに優しくねぇよ」
「え?そう?」

 圭が優しくないなら誰が優しいんだろうか。
 人に客観視した方がいいと言っていたが、圭もそうした方がいいと思う。普通は幼なじみが教室から出ていったからって追いかけて校舎裏まで来ない。

「お前に優しくするのは・・・」

 それに続く言葉はなかった。
 そのタイミングで予鈴が鳴り、私達は教室に戻ることになった。

 何を言うつもりだったのか気になり後日聞いてみたのだが「綾乃のクソ鈍感」と言われはぐらかされた。
 何に対しての鈍感かよく分からないし、わざわざクソをつけることはないと思う。
 圭は私に対し優しいのは間違っていないが、またに当たりがキツくなるのだ。圭はツンデレという部類に入ると思う。