アラタとのやりとりを思い出していれば、後ろから小石を踏んだジャリっという音が聞こえる。パッと振り返れば、同い年くらいの長い前髪で顔を隠した男の子。
「ミチル……?」
アラタだ。声を聞く前からわかっていたのに、声を聞いて再確認をする。本当に会いに来てくれた。アラタの優しさにつけ込んでずるいことを言った私に会いに来てくれた。
「アラタ!」
嬉しくなって飛び跳ねて、抱きつけば、おずおずと私の背中に触れないように手を広げてくれる。アラタは想像していたほどイケメンではなかったし、背も高くないけど、アラタのぬくもりは暖かい。
「会いたかった」
「俺は会いたくなかったよ」
アプリを確認しなくても、本音なことはわかってしまう。声のトーンがあまりにも真面目で、真剣ないつものアラタのトーンだったから。あの時の、嘘のトーンとは全く違う。
嘘か本当か見極められなかったし、顔も知らなかったのに、今では誰よりもアラタのことがわかってる気がする。
二人でベンチに横並びで座れば、アラタは膝にブランケットを掛けてくれる。自然にそういうことをしてしまう優しさが、私には毒だった。
初めて会えたのだからもっと話題はたくさんあったはずなのに、私はやっぱり気の利いたことも言えない。それに、人の気持ちがわからないような無神経な言葉しか出せない。でも、アラタの言葉を聞きたかった。
「アラタは死にたくなっちゃった?」
問いかければ、ふぅっと薄いため息を吐いて、アラタは乾いたわざとらしい笑い声で返す。
「嘘はつかなくていいよ、わかっちゃうんだから」
「なにそれ」
スマホのウソ発見器を見せつければ、アラタは「またまたー」と冗談のように笑う。
「じゃあ一個噓吐いてみて」
「嘘、あーじゃあ俺は小学生です」
「なにその嘘」
「思いつかなかったんだよ」
ブーという音と共に表示されるのは【ウソです】アラタが瞬きをしながら、じいっと見つめる。
「俺はミチルが嫌い」
【ウソです】
「ミチルは中学生」
【ウソです】
「これ何に反応してんの?」
不思議そうに私の手の上からスマホを握り込んで近づけた、アラタにドキッとしてしまってスマホを落としかけた。
「悪い」
触られた手はひんやりとしていて、まるで人じゃないみたいに冷たかった。生きてないみたい。そう思った瞬間に、首を横に振る。
「だから、嘘吐かなくていいよ」
「そういうことじゃないでしょ、こんな時間に寒い丘の上まで来てさぁ」
「だって、会わないとアラタ死んじゃってたでしょ」
背中に張り付いていた嫌な予感を言葉にする。失う恐怖が身体中を支配して、ガチガチに固めてしまう。そんな気がするだけだった、それでも、真実だと思ってしまった。
「……違うよ」
【ウソです】
「ほら」
「そいつの精度なんてわかんねーだろ」
「それでも、私は分かるくらいにはアラタと毎日を過ごしてきた!」
「会ったこともないのに?」
会ったことがなくても、顔を知らなくても、私が知ってるアラタが声とSNSの投稿上だけでも。私には、痛いくらいアラタの思いがわかってしまった。
「ごめん、やめる」
「なにを?」
「嘘吐くの」
はぁああっと深いため息を吐いて、手を擦り合わせてから、アラタはまっすぐ前を見つめて話し出した。