私はクラスでただ一人ぽつんと置物のようになってはいるけど、陰口や攻撃対象からは免れたのだ。
友達は相変わらずできないけど、「怖くて見てるだけでごめんね」と声を掛けてくれるクラスメイトも何名かいた。今更とも思ったけど、声を掛けてくれたことが嬉しかったし、やめてと言おうと決めてからは、何を言われても心が軽かった。
そんなことを思い返していれば、仲良くなった子から【明日の宿題の範囲教えてほしい、頼ってごめん】というメッセージが届いていた。頼られるだけの関係性になれたのも、アラタのおかげだ。
「声を掛けてくれる子が数人いるんだけど、どうしたらクラスメイトと仲良くなれるかな?」
と、その時もまた、アラタに相談した。アラタはうーんと悩んでから、細切れになりながらも私に言葉を届けてくれる。
「頼ってみたら? 人間頼られると嬉しいじゃん」
「じゃあ、アラタは私がアラタを頼って愚痴を言ったり悩みを言うの嬉しいんだ?」
「嬉しいよ」
「す、なおに言わないでよ、ちょっとはずかしかったじゃん」
「ごめんごめん」
なんてやりとりの後、今届いた文面と同じようなメッセージを送った記憶がある。初めてのやりとりはとても他人行儀で、事務的なメッセージになってしまったけど、相手の子は【初めて送ってくれたー! って宿題かい! まぁいいけど、15ページの大問③と④だよー】と返してくれた。
そこから、少しだけ趣味の話になって、美味しいスイーツのお店なども教えてもらえるようになった。二人でお出かけとかはしたことないけど。時々メッセージでやりとりをするくらいには、仲良くなれた。
アラタを待ちはじめてどれくらい経っただろうか。スマホの時計を確認すれば、まだ三十分も経っていない。それなのに、手は悴んでうまく文字を打ち込めないし、体は震えてきている。
来るまで何日も待ってるとは言ったけど、アラタは本当に来ないつもりなんだろうか。ウソ発見器は反応したのに、まだ疑ってしまっている自分がいる。来て欲しい、でも、来てくれない気もする。
不安が胸の中を過っていく。それでも、アラタのことを待たないという選択肢は頭に浮かばなかった。来るまで何日でも何年でも待つ。学校だって、家族だって、アラタと比較したらどうなったって構わない。
座って待ってるから寒いんだと気づいて、立ち上がって歩き回る。丘の下を眺めれば、まばらに光が付いていた。こんな時間でも起きてる人間はまだたくさんいて、私一人きりじゃない。そう教えてくれたのもアラタだ。
「どうしても死にたくなってさ、俺がいない時は外眺めて見てよ」
「なんでよ」
「いいから一回見てみろって」
「はいはい見たよ」
アラタとの通話を繋げたまま、カーテンを乱雑に開く。私の死にたいは、もはや定期的に会いに来る親友ばりの頻度で現れてしまう。
その度にアラタは「大丈夫」と暖めてくれた。でも、アラタだって生活があって、学校があって。いつだって私のことだけを考えてくれるわけなんかないのもわかってる。
「光が灯ってる家が何箇所かあるだろ?」
「あるねー、いち、にぃ、さん、しー、ご! 五個もある見えるだけで」
「その数だけ寝れない人がいるんだよ」
「寝ないだけかもしれないじゃん」
アラタの言ってる意味がわかるのに、私は素直に受け止めきれずに答えた。だって、寂しさに震えて、不幸なのは自分だけだとあの時は思い込んでいたから。
「その中の一つが俺かも知んないよー、それに、ミチルと同じ思いで窓の外を眺めてる人もいるかもしれない」
あの光の一つがアラタであればどれほど良いんだろう。そう思いながら、光を目で追う。たとえ、あの光の元が違ったとして、同じ思いを抱えていたとして、私の思いが楽になるわけでもなんでもない。
それでも、アラタの言葉は本当にそうだと思わせる魔力があった。