ブーっとスマホが揺れて開けば、丁寧なリプライが返ってきてる。名前まで呼んでくれた。そして、私を気遣う文面に、なんで返そう。私も名前を呼んでみようか。
【アラタさんの一番上のお菓子めちゃくちゃ美味しそうです。私も雑多に呟いてるので、遠慮なくミュートしてください】
心臓がバクバクとがなりたてて、崩れ落ちてしまいそうになる。人とやり取りすることに、自覚はないけど私はどうやら飢えていたらしい。リプライが返ってくるだけで、何を話そうとワクワクする心を止められない。
何往復やりとりをしたか、わからなくなった時、ダイレクトメッセージに1件の通知が光った。パッと開けば先ほどまでやりとりしていたアラタさんの名前。
【リプだと長くなっちゃうんでDMしました。迷惑じゃなければ】
【全然迷惑じゃないです、むしろ嬉しいです】
その後もダイレクトメッセージでのやりとりは続く。通話で話してみようとなったきっかけはなんだったろうか。思い返してみれば、通話用アプリをダウンロードしたと言うアラタさんの投稿だった気がする。
アラタさんはどんな声なんだろう。どんな人なんだろう。やりとりを繰り返すたびに、どんどん気になって知りたくなっていた。
ついこの前まで、一人俯いて膝を抱えて「もう無理だ」と泣いていたのに。今では、アラタさんとの会話のためにスマホを何度も確認してしまう癖すらついていた。
学校でひとりぼっちなことには変わりない。クラスメイトたちは陰でコソコソと「気持ち悪い」と嘲笑っているのを知っていたし、家に帰ればおじさんとおばさんはケンカを続けている。どちらも、私のせいだから、否定をするつもりも、怒るつもりもなかった。
それでも、たしかに、生きてるのが楽しいと感じ始めていた。
初めての通話にドキドキして見えもしないのに、布団の上に正座して掛かってくるのを待つ。着信と表示された瞬間に許可を人差し指で押した。
「あ、もしもし?」
「声では初めまして、アラタです」
少し笑ってる初めて聞いたアラタさんの声は、低めで落ち着いた耳馴染みのいい音だった。緊張と何を話していいか考えすぎた結果、学校の人にも、誰にも言えなかった悩みを最初に口にする。
「私、生きてていいのかなってずっと思ってたんです」
話題をミスったと自分自身でもわかった瞬間には、アラタさんは心配そうな声色を出して私の話の続きを聞いてくれた。こんなんだからクラスメイトたちに気味悪がられるし、おじさんとおばさんは私のことを「どこかおかしい」と言ってケンカを始める。
人との関わりが絶望的に下手な自覚はあった。