「アラタが会いたくなくても、私は会いたい。ワガママでごめんね」

 アラタは優しい人だから。私はズルイ方法を取ることにした。こんな真夜中に私一人、寒い場所に放っておくわけがない。

 わかってるから、ひどい言葉を口にする。

「アラタが前写真上げてた丘あるじゃん」
「市内見渡せるとこね」
「あそこでアラタが来るまで待ってる。何日でも」

 心から嘘偽りなく、本気でそう思ってる。だから、アプリは反応しない。アラタは何も言わずにただ黙って考えているようだった。

「俺、行かないよ」

 シーン。

 本気で来てくれる気はないらしい。本気だと言うことを見せよう。服を着替えて温かいジャンパーを着込む。夏が近づいて来たとはいえ、外はまだ肌寒い。リュックにモバイルバッテリーとお腹が空いた時用のお菓子を詰める。飲み物も一応持って行こう。

 ガサゴソ弄ってる音が聞こえたのか、アラタの声が焦り始めた。

「本気で行くの? 俺行かないよ」
「本気で行くよ」
「俺、行かないって」
「来てもいいかなって思ったら、来てね。何年でも待つよ」
「何年って無理だろ、そんなの」
「無理じゃないよ」

 音を立てないように静かに家を出る。おじさんもおばさんも、もうぐっすりと眠っているようだ。家の明かりが付くかを確認していたけど、しばらく待っても、付きはしなかった。

 当たり前だ。おじさんもおばさんも、私のことなんてどうでもいいから。起きていたとしても、わざわざ出て来て確認なんてしない。

 自転車を取り出して、跨る。まだ繋がっている電話の先で、アラタはずっと「行かないよ」と繰り返していた。

「今日、満月だね。ちょっと雲が掛かってるけど。でも、いい事ありそう」

 一呼吸置いてから、シャッとカーテンを開いた音が聞こえた。アラタが外を確認したのだろう。先ほどよりも、焦った声になっていてバタバタと着替えてる音がしてる。
 
「本当に外に出てんじゃん」
「本当に会いに行くんだよ」
「俺行かないって」

 ピコン。

 眺めていたスマホの通知に、頬を緩める。本当にずるくて、ひどくて、ごめん。でも、アラタに会いたい。アラタが私に辛いを言えなくて、嘘を吐くしかないならそれを取っ払いたいの。

「じゃあ、待ってるね」
「待って、って」

 プチンと一方的に通話を切って、スマホをポケットにしまいこむ。アラタに告げた場所は、ここから自転車で二十分くらい。そこから丘を少し登らなきゃいけないけど、アラタに会えるためならいくらでも出来る。